2025年06月06日 1873号
【沖縄戦の史実歪曲相次ぐ/自衛隊の「南西シフト」と連動/「軍隊は住民を守らない」を否定】
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戦争勢力が沖縄に対して「歴史戦」を仕掛けている。沖縄戦の史実をねじ曲げることで、「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦最大の教訓を無効化しようとしているのだ。この背景には沖縄・琉球弧における日米一体の軍備増強、戦争国家づくりの動きがある。
参政党神谷の演説
石破茂首相は5月20日、沖縄県の玉城デニー知事と首相官邸で面会し、「沖縄の皆さまに大変申し訳ない発言があった。自民党総裁として深くおわびする」と述べた。「ひめゆりの塔」の展示説明を「歴史の書き換え」などと批判した西田昌司参院議員の発言が念頭にあるとみられる。
もっとも、西田は「沖縄では地上戦の解釈を含めめちゃくちゃな教育のされ方をしている」という発言の根幹部分は謝罪も撤回もしていない。その西田を擁護する者も現れた。参政党の神谷宗幣(かみやそうへい)代表だ。
神谷は青森市内で行った街頭演説(5/10)で「日本軍が沖縄の人たちを殺したわけじゃない。にもかかわらず日本軍にやられましたみたいな記述があるのはおかしい」と訴えた。沖縄地元紙の取材に対しても「日本軍の中に問題がある人もいた。でも現場で戦った兵士たちは本当に沖縄を守ろうと思って戦ったはずだ」と主張。「沖縄を捨て石に見捨てるつもりだったというのは言い過ぎだ」と強調した(5/14琉球新報)。
神谷が語る「参政党の歴史観」は史実をまったく無視している。まず当時の日本軍や戦争指導者は沖縄そのものを守ろうとしたわけではない。連中は天皇制の維持しか考えておらず、沖縄を本土決戦に備える時間稼ぎの「捨て石」にした。
事実、陸上自衛隊の幹部候補生学校で使う2024年度版の学習資料は、沖縄戦を指揮した第32軍を次のように讃えている。いわく「孤軍奮闘3ヶ月にわたる強靭な持久戦を遂行し、米軍を拘束するとともに多大な出血を強要して、本土決戦準備のために偉大な貢献をなしたのである」。
さらに、軍に協力して住民の「根こそぎ動員」を実行した当時の島田叡(あきら)県知事を「軍・官民の相互信頼」を「飛躍的に向上」させたと賞賛している。住民を戦場に駆り出し、多くの犠牲者を出したことへの反省は微塵もない。神谷も同じだ。
住民虐殺を例外視
神谷は、日本軍による住民虐殺や「集団自決」(強制集団死)への軍関与は例外的な事例にすぎないと捉えている。「そういうところだけ切り取って」「命を懸けて戦ってくれた先人に汚名を着せることをやっちゃいけない」というわけだ。
これまた史実の歪曲というほかない。スパイ嫌疑や食料強奪などで日本軍が住民を虐殺した事例は沖縄県内のいたる所で多数起きている。そして軍の史科が示すように、日本軍内に沖縄県民蔑視や偏見があり、信用できない存在とみていたことは明らかだ。
「軍官民共生共死の一体化」を作戦方針の第一に掲げた第32軍は、住民にも米軍への投降を許さなかった。司令部機能が壊滅し、組織的戦闘が終わった以降も、投降に応じようとした住民を日本兵が殺害する事件が相次いだ(島民20人が日本軍にスパイ視され処刑された久米島事件など)。
「集団自決」にしても、日本軍による強制と誘導が大きな要因となっていた。日本軍が周囲におらず、集団投降できる状況であれば起きていない。民間人であっても敵に捕まることを許さない日本軍の存在が多くの命を奪ったのである。やはり「軍隊は住民を守らない」ということだ。

「軍民一体」を賛美
参政党は極右・陰謀論者の集まりである。だが、神谷発言をネトウヨ受けを狙った妄言と軽視してはならない。彼が語る沖縄戦認識は日本政府が周到に行ってきた「沖縄戦の再定義」策動と一致したものだ。それは沖縄戦を「軍民一体の戦争遂行」のモデルケースとして美化することである。
先に紹介した陸上自衛隊の学習資料は、伊江島での戦闘を「住民は守備隊と一体となって戦闘に参加し、婦人までが銃を取って戦い、多数が軍と運命をともにした」と描く。こうした自衛隊流の沖縄戦認識を子どもたちに植えつけることを目的とした教科書も登場した。令和書籍(代表は作家の竹田恒泰)の中学校歴史教科書である。
「沖縄を守るために、爆弾を持ったまま敵艦に突入する特攻作戦も行われ、二八〇〇人以上の特攻隊員が散華しました。沖縄攻防戦では、中学校から高校生の男女二三〇〇人以上が、志願というかたちで学徒隊に編入され、一二〇〇人以上が死亡しました。逃げ場を失って自決した民間人もいました」
沖縄戦を「祖国防衛戦争」と定義し、当時の若者が積極的に協力したかのように描きたいことがわかる。
戦争準備の一環
こうした史実の歪曲は政治的意図に基づくものだ。沖縄戦最大の教訓「軍隊は住民を守らない」を否定し、駆逐することである。
日本政府は今、ミサイル部隊の配備を中核とした自衛隊の「南西シフト」を急いでいる。「台湾有事」における中国封じ込め作戦を米軍と一体となって行うためだ。戦争準備を進めるにあたり、最大のネックは住民の粘り強い反対だ。
軍備増強が住民の安全につながらないこと、それどころか戦争を引き寄せることを沖縄の人びとは歴史的体験やその継承(教育)を通して知っている。逆に言えば、そうした歴史認識を覆すことが戦争国家づくりの鍵を握ると戦争勢力は考えているのである。
「軍民一体の戦争遂行」という観点から沖縄戦を評価する歴史観を琉球新報は「国民、県民を『新たな戦前』へ導くことにもつながる」(5/14社説)と批判した。戦争準備の一環である歴史の歪曲を許してはならない。 (M)
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