2025年06月20日 1875号

【日米共同声明から「辺野古が唯一」の文言が消えた!/新基地建設は破綻/ジュゴンセミナーより】

 普天間基地の危険性を解消する「唯一の解決策」は辺野古代替施設の建設―政府が繰り返し人びとに刷り込んできたナラティブ(物語)だ。日米首脳の共同声明にも必ず記されていた。ところが、今年2月7日の石破首相とトランプ大統領の共同声明には「(辺野古が)唯一の解決策」の文言がなかった。

 このことの意味は何か。ジュゴン保護キャンペーンセンター(SDCC)国際担当、Okinawa Environmental Justice Project(OEJP)代表の吉川秀樹さんが、5月18日に開かれたジュゴンオンラインセミナーで解き明かした。

軟弱地盤問題を米国へ

 辺野古新基地建設を止めるためには「沖縄側の情報を米国に伝えること」「米国側の情報を沖縄に伝えること」がとても重要だ。とはいえ、それはなかなか難しい。沖縄の情報を米国政府に送ろうとしても、日本政府が介入し、日本政府の情報のほうが優先される。日本の環境アセスメントを手厳しく批判した米国防総省の専門家の報告書を把握できていなかったという苦い経験もある。

 しかし、大浦湾の海底に軟弱地盤が存在することが明らかになって以降、沖縄県も市民社会もこの問題を米国側に伝える努力を重ねてきた。玉城デニー知事が訪米し議員らと会う、沖縄県ワシントン事務所がウェビナーを開くなどして、大浦湾が5300種もの生物が生息する生物多様性豊かな海であること、米環境NGOミッション・ブルーにより「ホープスポット=希望の海」と認定されたことなどを発信してきた。

 2022年、OEJPは軟弱地盤の問題を詳しく説明した書簡を米連邦議会上下両院の議員に送付。書簡には国内外の100近くの団体、米国の州・市町村議会議員40人以上が賛同を寄せ、独立系メディア「インターセプト」でも報じられた。OEJPはその後も米国市民と共同で、この問題に関する情報公開を米軍に求めている。

 そんな中、昨年6月、米下院軍事委員会のモイラン議員が会計検査院に宛てて「普天間代替施設(FRF=辺野古新基地)の建設がインド太平洋における安全保障上の課題に対応するために、依然として最適な方法かどうか」を再検証するよう求める書簡を送った。検証項目として以下7点を示している。

(1)日本政府が管理するFRF建設プロジェクトの進捗状況の詳細な説明

(2)24年1月の工事開始以降に直面した課題の評価

(3)建設現場周辺の海底状況および日本政府が提案する地盤補強工事の詳細説明

(4)軟弱な海底および計画されている地盤補強工事が米海兵隊の同施設における将来の活動に影響を及ぼすかどうかの評価

(5)工事現場にある軟弱な海底地盤が不同沈下を引き起こし、米国が負担する長期的な維持費を増加させるかどうかの評価

(6)建設地付近の2つの活断層が地震を引き起こし、施設の構造安定性に影響を与えるかどうかの評価

(7)新基地建設により生じる遅延や予算超過の可能性に関する評価

 7つの項目はまさに、沖縄県と市民社会がずっと投げかけてきた問題だ。辺野古新基地建設自体が可能かどうかを米国政府・会計検査院は調査せよ、日本政府からは「大丈夫」との情報が来ているが、それだけでは足りない、という内容になっている。

日米の市民に発信を

 今後の取り組みとして吉川さんはこう提案する。

▽米国会計検査院に軟弱地盤評価の報告書を公開させる。同時に工事状況の情報を提供する。

▽モイラン議員と連邦議会軍事委員会への情報提供と働きかけを行う。

▽日本政府に対し、日米首脳共同声明から「唯一の解決策」の文言が消えた理由の説明を求める。[※]

▽宜野湾市長・名護市長・県知事・自治体議員・国会議員に、米政府の動きや日米首脳共同声明に対する対応を求める。

▽沖縄県民・日米の市民にこの状況を広く伝える。

 Justice delayed is justice denied=正義の遅延は正義の否定だ、という言葉がある。建設の実現性がきわめて低い辺野古新基地は、普天間の危険性除去にはなり得ない。「環境破壊以外の何ものでもない工事の即時中止を」「ホープスポットの海を守れ」の声を今こそ大きく広げよう。

※ 伊波洋一参院議員事務所を通じたSDCCからの質問に外務省日米地位協定室は5月23日、「共同声明はその時々で表現が変わる。ご指摘の文言の有無にかかわらず、辺野古移設が唯一の解決策との立場に変更はない」と回答した。



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