2025年06月20日 1875号
【「違法状態」が続く兵庫県/反省もなく居直る斎藤知事/公益通報制度の空洞化招く】
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今国会で成立した改正公益通報者保護法は、事業者側に対する罰則規定を盛り込んだ。通報者保護の実効性を高めることが狙いだ。だが、こうした動きに逆行する現象が兵庫県で起きている。第三者委員会でも違法行為を指摘された斎藤元彦知事の居直りだ。
改正法成立も不十分
企業や役所など組織の不正を内部告発した人を守るための公益通報者保護法の改正法が6月4日の参院本会議で可決、成立した。
一番のポイントは、通報者に不利益な取扱いに対する刑罰を導入したことにある。具体的には、公益通報したことを理由に解雇や懲戒処分をした法人に3千万円以下の罰金、処分を決めた担当者に6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を科す。同法はこれまでも通報を理由とした解雇を無効とし、減給、降格、配転、嫌がらせといった不利益な扱いを禁じていたが、罰則規定がなく実効性を疑問視されていた。
さらに、▽公益通報の担当者を置かず消費者庁の命令にも違反した事業者(労働者数301人以上)に刑罰▽通報者捜しの禁止を明文化▽保護対象となる通報者にフリーランスを追加―など、通報者保護の実効性を高めるために必要な内容を盛り込んだ。
大きな課題も残されている。報復の手段として用いられることが多い配置転換や嫌がらせが刑罰の対象とならなかったことだ。公益通報を行うために必要な資料の収集や持ち出しに対する民事・刑事の免責規定の導入も見送りとなった。
参院の特別委委員会で参考人として意見陳述した元オリンパス社員の浜田正晴さんは「報復としての配転を刑罰の対象にしないことは、違法行為を容認、放置することと一緒だ」と憤る(6/4朝日)。浜田さんは社内のコンプライアンス室に内部通報を行ったために、会社から不当な異動を命じられた経験を持つ。
衆参両院の特別委員会は改正案の可決にあたり、配置転換を刑事罰の対象とするよう検討を求める附帯決議を採択した。施行後3年をめどとする次の見直しの焦点だ。
告発つぶしで命奪う
衆院特別委員会の附帯決議には「昨今の地方公共団体における公益通報制度に係る事案を念頭に」というくだりがある。兵庫県の斎藤元彦知事に対する内部告発をめぐる一連の問題だ。
昨年3月、兵庫県の西播磨県民局長だった男性が斎藤知事のパワハラなどを指摘した匿名文書を報道機関や県議会議員らに送った。斎藤知事は側近の県幹部に文書作成者を捜し出すよう指示。男性の公用パソコンを押収した上で、停職3か月の懲戒処分にした。
しかもパソコンに保存されていた私的情報を県総務部長(当時)が県議3人にリークした。告発者である男性の人格や人間性に疑問を抱かせ、文書の信用性を貶めること(県の第三者委員会がまとめた報告書)が目的だった。
プライバシーの暴露を恐れた男性は精神的に追い詰められ、昨年7月、自ら命を絶った。漏洩した私的情報は兵庫県知事選(昨年11月)の過程でネットに大量拡散され、斎藤支持を広げる原動力となった。勝手な憶測による誹謗中傷は今も絶えず、故人の尊厳を傷つける事態が続いている。
被害者は私たち
公益通報者の探索や通報を理由とした嫌がらせや懲戒は公益通報者保護法に違反する行為である。県が設けた第三者委員会も、斎藤知事らの対応を「明らかに違法」と認定した。そして私的情報のリークについては、元総務部長や元副知事が「知事に指示された」と供述している。
だが、斎藤本人は「指示はしていない」の一点張りだ。違法行為の証拠を突きつけられても「真摯に受け止めたい」という定型文を繰り返すだけで、自分の非を認めようとしない。
こうした態度が世の中に及ぼす悪影響を、公益通報制度に詳しい奥山俊宏・上智大学教授は次のように語る。「元県民局長が受けたようなひどい仕打ちは、誰だって避けたいでしょう。あのような仕打ちを受ける可能性があると分かっていて、それでも公益通報しようという気持ちには、誰だってなりづらい。そのような恐れを、兵庫県職員だけではなく、日本の多くの人たちが持ってしまったと思います。そのような萎縮によって、なされるべき公益通報がなされなくなれば、表に出てくるべき組織の不正や腐敗が隠されてしまう。その結果、被害を受けるのは社会の側、私たち皆なんです」(3/17FRIDAYデジタル)
重大な人権侵害にあたる違法行為を重ね居直りを決め込むような人物を知事の座にとどまらせていてはならない。兵庫県の斎藤案件は日本の民主主義が問われているのである。 (M)
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