2025年06月20日 1875号
【読書室/日本経済の死角―収奪的システムを解き明かす―/河野龍太郎著 ちくま新書 940円(税込1034円)/賃上げせずが長期停滞の元凶】
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高騰する物価に対応するには賃上げが不可欠だ。
だが、資本とその応援者らは「生産性を上げなければ賃上げができない」と言う。もっともらしく聞こえ、納得する人も少なくない。
本当だろうか。政府統計資料に基づいたデータを見ると、日本では、1998年から2023年までに時間当たりの生産性が30%上昇している。ところが、実質賃金は横ばいのままで、最近は3%程度下がっている。同じ25年間で、生産性が50%上がった米国の賃金は25%増、生産性20%上昇のフランスも賃金20%増だ。日本の異常さが際立つ。
この事実に対し、「生産性の低い中小企業の影響で大企業はそうでもない」との反論もある。大企業の正社員は毎年定期昇給があり、25年間で実質賃金は1・7倍ほどになっている。
だが、大企業の正社員は全労働者の7人に1人程度。大企業でも半数以上の非正規労働者や、全体の7割を占める中小企業労働者は、実質賃金の低迷によって生活に余裕をなくしている。
日本の大企業は儲かる一方だが賃上げはせず、それが個人消費を少なくしている。消費が弱まれば売り上げも伸びず、企業としての投資を弱めてしまう。一企業の利益は増えても、全体では間違った方向に向かう。著者はこれを「合成の誤謬(ごびゅう)…誤り」と評する。
労働者が生産性を上げてきたにもかかわらず、企業がため込むだけで賃上げがされてこなかった。この「収奪的システム」に、日本経済の長期低迷の根源がある。著者は、経営側の研究所などの道を歩んで来たエコノミストだが、賃上げの必要を強調するとともに、日本経済の問題点を解明している。 (I) |
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