2025年06月27日 1876号

【イスラエルのイラン攻撃糾弾/世界中から“ガザへの行進”/政府の不作為をただす市民の闘いを】

 イスラエル軍がイランの原子力施設を攻撃した。米国・イラン核協議の最中だった。決行はトランプ大統領の了解のうえだ。ネタニヤフ首相はイランとの交戦状態を作り出し、全土に非常事態を宣言した。市民からの支持を失った政権がとる常套(じょうとう)手段だ。全世界から糾弾の行動を起こそう。パレスチナ解放へ前進しよう。

またしても「自衛戦争」

 イスラエル軍は6月13日未明、イランのウラン濃縮施設をはじめ100か所以上を戦闘機、ドローンを使い爆撃。核科学者、軍最高幹部の他、女性や子どもを含む市民を殺害した。ネタニヤフ首相は「イランの核ミサイル開発を阻止するため」と攻撃の狙いを語り、「自衛のための攻撃」だと正当化した。

 イランの報復攻撃に、イスラエルはさらに攻撃を繰り返している。ガザ攻撃を世界中から非難されている中で、新たに戦域を拡大するネタニヤフ政権を許すわけにはいかない。

 今回攻撃されたウラン濃縮施設では60%濃縮が限度(国際原子力機関報告)で、核兵器には通常90%が必要とされている。しかも、トランプが改めて「核合意」交渉を4月から始めている。ネタニヤフが言うような「さし迫った危機」などあるはずがない。ただトランプが「2か月で合意しなければ、イスラエルに攻撃させる」と脅していたのは事実だ。イスラエルは「核協議」を横目に計画を進めた。対外諜報機関モサドがイラン国内にドローン基地をつくり、ゴーサインを待っていた。

必要だった「戦争相手」

 なぜこの時期に攻撃に出たのか。ハマスに続く「戦争の相手」を必要としていたからだ。

 5月から6月にかけ、ネタニヤフ政権は一層追いつめられていた。「ハマスとの自衛戦争」と正当化してきたガザ殲滅(せんめつ)作戦。多くの女性や子どもが犠牲となっている現状に「もはや正当化できない」とドイツ首相から批判された(5/26)のが象徴的だ。欧州の主要国政府が公然と「やり過ぎ」と批判せざるを得ないような状況になっていた。

 国連総会は6月12日、ガザ地区での「即時停戦、支援物資搬入に対する制限解除」を日本を含む149か国の賛成で採択した。米国、イスラエルは「決議にはハマス批判がない」と反対。反対は12か国、棄権19か国。「自衛戦争」と容認しているのは米国と対米関係を優先する十数か国に過ぎない。

 だが、主要国はイスラエル批判を口にするだけで、踏み込んだ制裁措置は回避している。

 イスラエルとの自由貿易協定交渉を中断した英国だが、イスラエルに対する武器輸出、F35戦闘機部品の供給を続けている。英国政府は昨年9月、イスラエルへの「武器売却の一部停止」を表明していた。ところが、「(輸出の実態は)停止表明による影響はまったくなかった」(5/7パレスチナ青年運動)と暴露されている。イスラエルにダメージを与えることはなかったということだ。

 フランスはサウジアラビアと共同で、パレスチナ国家承認「2国家解決」をめざす国際会議を呼びかけていたが、イスラエルのイラン攻撃を口実に6月17日開催予定を延期した。米政府が妨害工作を行なっていたが、マクロン大統領もポーズだけだったということだ。

黙認に30万人の抗議

 ネタニヤフ政権が脅威と感じているのは、主要国政府から公然とイスラエル批判が出始めたことであり、その状況を生み出した世界的な市民の闘いの広がりである。

 環境活動家、スウェーデンのグレタ・トゥンベリはじめ11人の活動家とジャーナリストが乗り込んだマドリーン号は、支援物資を積んでガザをめざした。公海上で不当にもイスラエル軍に拿捕(だほ)された(6/10)が、メディアの注目を浴びた。「社会正義なしに、気候正義は存在しない」とガザ支援行動を呼びかけ、自国政府への抗議に取り組むよう訴えた。

 陸上では「ガザへの世界行進」があった。80か国以上から数千人の人びとが6月13日カイロに到着、15日からラファ国境をめざして40数`bを行進する。スイス代表は「ラファ国境を開放し、ジェノサイドを阻止するための国際的圧力を高めること。政治的不作為に対する市民主導の取り組みだ」と語っている。UWFPP(パレスチナ人民防衛統一労働者戦線)も成功の一端を担っている。

 ユダヤ人による動きもあった。世界中で高まる反シオニズムの声をまとめるユダヤ人反シオニスト会議が6月13〜15日オーストリアで開催された。パレスチナの地にイスラエル建国をめざすシオニストは、かつてはユダヤ人の1%にも満たないごく少数者だった。ナチドイツに虐殺されたホロコーストの犠牲者600万人はほとんどが反シオニストだった。シオニストこそ反ユダヤ主義者なのだ。

 「会議は、川から海まで民主的で平等な政体の一員になりたいと願うパレスチナ人やイスラエルのユダヤ人のために、正義と平和を求める世界的な運動を支援することをめざしている」(6/12Mondoweiss)

 ローマでは30万人が反イスラエルデモに立ち上がった(6/7)。イタリア政府がイスラエルのジェノサイドに沈黙を続けることへの抗議でもあった。ロンドンではイラン爆撃に抗議する緊急行動が呼びかけられた(6/14)。国際的な連帯行動が主要国政府への大きな圧力になっている。

犯罪行為に制裁を

 パレスチナの現状はさらに厳しくなっている。PPSF(パレスチナ人民闘争戦線)が「世界がイランへの侵略に関心を向けていることを利用して、ガザ地区の住民に対するさらなる虐殺と集団虐殺を行うだろう。また入植地建設と包囲を通じてヨルダン川西岸地区に対する攻撃を一層激化させていくだろう」と警鐘を鳴らす(6/13)。事実、ネタニヤフはイラン攻撃の日に、ガザ北部の避難所を激しく爆撃している。ヨルダン川西岸でも、入植者の土地所有権登記を可能にし、パレスチナ人追放を加速しているのだ。

 これを支援しているのは明らかに米国だ。「われわれは、無条件降伏を得るために日本に2度核兵器を投下した。ここでも同じことが必要だ」。米連邦議会下院議員ランディ・ファインがガザ停戦についてこう発言した(5/22FOXニュース)。ハマスを無条件降伏させるには原爆を落とせと、核保有国イスラエルをあおっているのだ。

 日本政府は断固として抗議すべきだ。同時に、イスラエルとの経済協力をやめよ。武器取り引きをするな。イスラエルの犯罪行為に実効ある制裁措置をとれ。

 イスラエルのイラン攻撃は、日本が整備をめざす敵基地攻撃能力(自衛のための先制攻撃)の行使そのものだ。まだ後戻りできる。軍拡政策の転換をはかれ。





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