2025年06月27日 1876号

【那覇市議「対馬丸の説明は間違い」/沖縄戦の史実をまた歪曲/戦争準備に都合が悪いから】

 沖縄戦の史実を歪曲する政治家の発言がまたとび出した。自民党の会派に所属する那覇市議が「対馬丸記念館」の展示パネルを「間違っている」と批判したのである。発言の背景には、本人が認めているように、「台湾有事」を想定した戦時準備策動がある。

記念館にいちゃもん

 1944年8月、疎開学童ら1788人を乗せて沖縄から九州に向かっていた貨物船「対馬丸」が米潜水艦の魚雷攻撃を受け沈没した。死者数は判明しているだけで1484人を数える。そのうち千人以上が15歳以下の子どもだった。

 対馬丸記念館(那覇市)は、対馬丸の悲劇を後世に伝えるための施設である。「子どもと戦争」に焦点をあてた展示を行っているのが特徴だ。天皇一家が先日同館を訪れたことをニュースで見た人も多いだろう。

 その記念館の展示を「間違っている」と非難した議員がいる。自民党系会派の大山孝夫・那覇市議だ。大山は6月11日の一般質問で、同館には軍の食糧や戦力の確保が疎開の「真の目的」だと説明する展示があると指摘。「住民を戦場に巻き込まないということが『真の目的』ではないかと思う。学習施設として、間違っている記述は適切でない」と主張した。

 問題視された展示パネルは、疎開の目的を「安全な場所へ避難させ命を大切に守るというよりも、軍の食糧を確保し、戦闘の足手まといになる住民を戦場から退避させ、果てしなく続く戦争の次の戦力となる子どもを確保する」などと説明したもの。これが「疎開や避難に関する誤った見識」を生むと言うのだ。

 質問の最後に大山はこう述べている。「台湾有事が最近言われているが、本島避難についても対策が取られている。その際にこれ(パネル)を見た子どもから“兵士になるために避難するんでしょ”と言われた時に、私たちは何をもって違うと説明するのか」

 「語るに落ちる」とはこのことを言う。元自衛官の大山は現在進行中の戦争準備の妨げになるという観点から、展示にいちゃもんをつけたというわけだ。

疎開は強制退去

 沖縄における疎開は、米軍上陸に備えた戦争準備の一環だった。その眼目は、持久戦を展開することを見据え、戦力として使えない老幼婦女子を排除することにあった。彼らが残って食糧を消費してしまうことを沖縄守備軍(第32軍)は避けようとしたのである。

 事実、第32軍の長勇(ちょういさむ)参謀長は、当時の地元紙でこう述べている。「戦場に不要の人間は居てはいかぬ、先ず速やかに老幼者は作戦の邪魔にならぬ安全な場所に移り住むことであり、稼働能力のある者は(中略)神州護持のため兵隊と同様、総てを捧げることだ」

 このように、沖縄戦における疎開は徹底した戦時動員と表裏一体の関係にあり、民間人の生命を守ろうという発想はそこになかった。

 また、学童疎開を進めるために開かれた1944年7月の臨時校長会において、県の内政部長は「(国民学校)初等科3年以上の男子は将来の大事な人的資源である」と発言している。将来の戦力温存という狙いが読み取れる(6/12琉球新報)。対馬丸記念館の説明が正しいのだ。

「ひめゆり」発言と同じ

 政府は今、沖縄・先島諸島の住民を九州などに避難させる計画の策定を急いでいる。明言はしていないが、「台湾有事」の際に中国から武力攻撃を受けることを想定した措置だ。その目的は沖縄戦と同じで、軍事作戦の妨げになりうる住民を排除することにある。

 自衛隊と米軍の共同作戦計画案によれば、有事の際には米海兵隊のミサイル部隊が琉球弧の島々に分散展開し、自衛隊の支援を受けながら、中国軍艦船の動きを封じ込める作戦を実行するという。沖縄を盾にした持久戦構想である。島中を移動して戦う部隊にしてみれば、そこに大勢の住民がいることは作戦遂行の邪魔でしかない。だから、住民保護という名目で強制退去を図りたいのである。

 政府や軍が進める住民避難が戦争準備の一環であること、それは住民を危険に追いやることを対馬丸の悲劇は物語っている。そのような史実が正しく伝わることは、戦争準備を進める政府・自民党にとっては不都合でしかない。だから改変しようとしている。今回の大山発言がそうだ。

 自民党といえば、西田昌司参院議員がひめゆりの塔の展示について「歴史の書き換えだ」と批判した一件が記憶に新しい。この発言も、「国民保護法制」への合意形成が必要だと訴える文脈でのものだった。

 その後、大山は発言を撤回したが、戦争勢力は今後も「歴史否定論」をくり出してくるだろう。新たな戦争のための歴史歪曲策動を許してはならない。(M)

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS