2025年07月11日 1878号
【米・イスラエル対イラン「停戦」をどう見る/パレスチナ虐殺の批判かわす狙い/ネタニヤフ政権の基盤崩すBDS運動】
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「12日戦争は完全に終わった」。トランプ大統領はイスラエル・イラン戦争の停戦を誇らしげに宣言した。だが、イスラエルのパレスチナ殲滅(せんめつ)作戦はトランプ政権の支援の下で続いている。一刻も早く、非武装の闘いで、戦争屋たちの手足を縛らなければならない。
「広島・長崎と同じ」
イスラエルとイランが停戦に合意した(6/25)。米トランプ大統領の仲介と言うが、自分で火をつけておいて、「消火」を手柄にする「マッチポンプ」を許すわけにはいかない。
トランプはイスラエルのイラン攻撃を容認し、自らもイランの核施設を爆撃、参戦した戦争当事者だ。イランの核ミサイル開発を中断させるためだと正当化するが、米国が狙われたわけでもなく「自衛のため」とは言えない。明らかに国際法に反する行為だ。
米国内法にも違反する。戦争を始めるには議会の承認がいる。大統領に軍事行動の権限を与えている戦争権限法は緊急時に限っている。いずれにも該当しない。
ましてトランプは「広島・長崎の例を使いたくないが、本質的には同じだ」と核施設への爆撃が「戦争を終わらせた」と述べた。核兵器が戦争を終わらせることなどない。原爆投下が日本の敗戦を早めたわけではない。果てしない核競争、軍拡を進めただけだ。非人道兵器「核」の使用を正当化することは許されない。
今回、イランも含め戦争当事者がすべて「勝利」を宣言し、「停戦」に合意した。だが、米・イスラエルの軍事的脅威にイランはますます「核武装の衝動」を高めるだろう。イランに核放棄を迫るなら、イスラエルが「平和利用」とうそぶいて手に入れた核兵器を廃棄することだ。すべての核保有国が削減に動くことだ。
国際紛争は平和的に解決するという当然のルールを破壊するトランプを断固糾弾する。
「ここは殺戮の場だ」
不満ながらも「停戦」に同意したネタニヤフ。何を「成果」としたのか。
一つは、米軍を参戦させたことだ。ネタニヤフは昨年の11月頃からイラン攻撃の準備を始めたと地元紙が報じている(AERA6月30日号)。トランプが大統領選挙で勝利した頃だ。トランプとなら、イランを親米、親イスラエル体制に転換できると考えていた。事実、トランプは当初「なぜ体制転換が起きないのか」(6/22)と発信していた。
もう一つは、イランの核に目を向けさせ、主要国のイスラエル批判の声を封じたことだ。「パレスチナ国家承認」の国連会議を事実上つぶした。さらに、「主戦場はイラン、ガザは副戦場」とあたかもガザに対する攻撃を緩めるかのような情報を広めながら、攻撃を続けたのだ。
イスラエルと米国による「ガザ人道財団」の食糧配給所周辺で殺されたパレスチナ人は500人以上。イスラエル軍兵士は、「ここは殺戮(さつりく)の場だ。非武装のガザ住民に発砲するよう命じられている」と語っている(6/27ハアレツ紙)。
ヨルダン川西岸でも、入植者とイスラエル軍による虐殺が途切れることなく続いている。自治政府庁舎があるラマラに近いカフル・マリクで6月25日、入植者約100人がパレスチナ人の家を襲撃、女性や子どもを家に閉じ込め放火する事件があった。入植者を追い返そうと石を投げた住民に、控えていたイスラエル軍が発砲。3人が死亡、数人が重傷を負った(6/26ガーディアン)。
OCHA(国連人道問題調整事務所)によれば、西岸では2023年10月7日からの20か月で943人(うち子ども200人以上)のパレスチナ人が殺害された(6/13報告)。過去1年間で避難を余儀なくされたパレスチナ人は4万人を超える(6/27Mondoweiss)。
止めたF35部品輸送
暴力の限りを尽くすイスラエルとそれを支援する米国をはじめとする国家テロに非武装の闘いはいかに勝利するか。
ガザの開放をめざした「ガザへの世界行進」(6/15〜19)はエジプト政府の妨害でラファ検問所を開けることはできなかったが、80か国以上から数千人が参加した。引き続き、EU首脳会議の開かれたベルギーの首都ブリュッセルで抗議行動週間(6/23〜27)に取り組んだ。パリ航空見本市には数千人の抗議デモ(6/21)。イスラエルの兵器展示ブースを閉鎖せた。
メディアがイラン戦争一色になる中で、パレスチナ連帯闘争は大きな成果を上げた。
1つは、「マスク・オフ・マースク(マースクの仮面を剥げ)」キャンペーンの勝利だ。世界最大級の海運・物流会社マースクは過去1年間で米国からイスラエルへ数百万ポンドの軍事物資を輸送している。3月の時点では「虚偽による攻撃を受けている」と居直っていたマースク社は、6月になって「F35部品の輸送に関する声明」「イスラエル入植地関連輸送に関する声明」をウェブサイトに上げ、「対応見直し」を表明。輸送を停止した。
昨年11月、スペイン政府は入港を拒否。今年の2月、欧州全土から集まった1000人がコペンハーゲンの本社を1日閉鎖に追い込んだ。モロッコとフランスの港湾労働者はイスラエル軍にF35の部品を輸送するマースク社船舶への積み込みや整備を拒否、マースク社は長年使用してきた地中海の海上ルートを変更せざるを得なくなった(6/26Mondoweiss)。
2つ目の勝利は、ニューヨーク市長選民主党予備選挙でDSA(民主主義的社会主義者)のゾーラン・マムダニ候補が勝利したことだ(6/24)。反対派は、イスラエル批判を反ユダヤ主義にすり替え、マムダニに非難を浴びせた。「イスラムは敵」とのイメージを最大限利用しようとした(6/27同上)。イスラム教徒でもある彼はそれをはねかえして勝利。ニューヨークに限らず、米国社会においてパレスチナ連帯闘争の力の拡大を意味している。
現地闘争と連帯を
ネタニヤフ政権の足元を揺さぶる事態も進行している。軍事行動の継続でイスラエル経済の危機が確実に深まっているのだ。数万社もの企業倒産、観光業の大打撃、増税。経済見通しの悪化からイスラエルの信用格付けが2度にわたって大幅に引き下げられた。国家予算の23%をしめる国債は信用低下に伴い利払いが増え、財政危機を引き起こす。
BDS(ボイコット・投資引き揚げ・制裁)運動は確実にネタニヤフの政権基盤を掘り崩している。パレスチナ現地で非武装で闘うPPSF(パレスチナ人民闘争戦線)は「占領へのいかなる軍事的・政治的支援も停止するよう自国政府に圧力をかけ」るよう呼びかけている(6/24)。7月にはPWSU(パレスチナ労働者闘争ユニオン)委員長が連帯を求めて来日する。日本政府がイスラエル制裁に踏み切らないなら、市民が闘うまでだ。非武装の闘いは必ず勝利する。


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