2025年07月11日 1878号

【いのちのとりで裁判 最高裁で画期的勝訴/生活保護減額は違法】

 6月27日、最高裁が厚生労働省を断罪する判決を出した。2013年度から3年間の生活扶助基準額引き下げは生活保護法違反として減額処分の取り消しと国家賠償を求める大阪、名古屋の訴訟(いのちのとりで裁判)で、減額処分を違法とする統一判断を行った。原告団・弁護団は「画期的判決」と声明を発した。

 同趣旨の裁判が全国で31件あり、これまでに高裁判決が12件出されている。最高裁判決は、今後の裁判、生活保護をめぐる闘いにきわめて大きな力となる。

いのちのとりで裁判とは

 自民党は、12年の総選挙公約で生活保護給付水準の10%削減を掲げた。同年12月発足した安倍政権は翌年の通常国会に生活保護費670億円削減案を提出。すぐさまその公約を実行した。

 現行の生活保護法が1950年に制定されて以降、生活保護(生活費に該当する部分)基準が引き下げられたのは3回しかない。03年度に0・9%、04年度に0・2%、13年度から3年間で6・5%(最大で10%)で、この13年度の引き下げ幅は異常に大きい。

 これほどまでの大幅引き下げがもたらす影響は甚大だ。最低生活費を削減するのだから、困窮度はさらに深まる。それはいのちの危機に直結する。削減攻撃に対し、全国31件1027人が裁判で訴えた(原告のうちすでに232人が死去)。

 争点は何か。国は「健康で文化的な最低限度の生活の基準設定には厚労大臣に広範な裁量権があるので妥当」とする。原告は「引き下げが厚労大臣の裁量権の範囲を外れ、裁量権の濫用(らんよう)であり、憲法第25条と生活保護法第8条などに違反」とする。なかでも厚労省の物価偽装が厳しく問われた。

厚労省の物価偽装

 厚労省は、独自に物価を計算し4・78%の下落があったのでそれに合わせて生活扶助費を削減する、と主張した。ところが、総務省の計算方式で計算すると2・26%の下落だった。厚労省は2倍も膨らませたのだ。

 厚労省は、生活保護基準部会の意見すら聞かず、独断で独自の消費者物価指数を使いデフレ調整した。この調整では、一般家庭の購入割合が使われ、生活保護世帯の消費実態は無視された。たとえば、パソコンやテレビなど電化製品への支出割合は一般世帯の3分の1から4分の1でしかない。さらに、消費者物価指数が高かった08年と下落幅が大きかった11年を取り出し、恣意的に比べている。

 厚労省は、消費者物価指数を偽装してまで安倍政権に忖度(そんたく)した。それを判決は「過誤、欠落があり違法」と明確に断罪したのだ。


生活保護申請は権利

 20年以降、コロナ禍で収入減になった人が続出した。国会でも問題となり、政府・厚労省は生活保護申請を働きかけると答えざるをえず、ホームページに「生活保護の申請は国民の権利です」と案内を載せた。

 だが一方で、自民党や右派勢力が高齢者や外国人をターゲットに生活保護バッシングを今も執拗に繰り返している。行政が保護申請を妨げる水際作戦も続く。生活保護費削減は47の低所得者向け施策に影響し、低所得者に負担を強いる。こうした動きをとめるために最高裁判決を活かすべきだ。

 *   *   *

 原告側は減額処分が憲法25条の生存権保障に違反すると訴えたが、判決は「国家賠償法上の違法があったとは言えない」として認めなかった。しかし、最低生活費である生活保護費の削減は生存権を保障しないことと同じだ。最低限度の生活を維持するには「いのちのとりで」となる生活保護申請をしやすくし、制度を拡充することが必要だ。

 いのちのとりで裁判全国アクションは、厚労省に対し謝罪と被害回復のための減額分支給などを直ちに要請した。生活保護申請を権利として定着させ、生活保護制度の拡充を求めよう。

「おめでとう」「勝ったぞ」/これからがまだ闘いだ

 6月27日午後、第三小法廷の26の傍聴席を求めて334人が並んだ。列の中には若い世代も少なくない。

 3時半、最高裁の庁舎から原告・弁護団が姿を現すと、正門前で待ち構えていた人びとから長く続く大きな拍手とともに「おめでとう」「やったー」「勝ったぞ」の声が飛ぶ。掲げられた紙には「勝訴」「保護費引下げの違法性認める」などに加え、朱色で「だまってへんで、これからも」の文字も。手に持つ小寺アイ子さんが共同代表を務める大阪訴訟原告の、怒りのこもった合言葉だ。

 4時、参院議員会館で始まった報告集会は、急きょ設けられた二つのサブ会場も満席に。各地の原告から「けさ仏様にかつ丼を作ってあげてきた。帰って報告し、夕飯にする」「うれしい。全国の支援者・弁護団のおかげ。これからがまだ闘いだと思っている」「国には謝罪してほしい」と、勝利の喜びとともに今後の闘いへの決意が語られた。

 最後に、「いのちのとりで裁判全国アクション」共同代表の尾藤廣喜弁護士が「今まで生活保護基準の本体に関する判断で勝ったことは一度もない。国が決めた基準のあり方が根本から間違っている、と最高裁が認めた歴史的な判決だ」と評価した上で、「闘いはこれで終わりではない。きょうこれから厚生労働省に、被害の回復と再発防止を求める要請書を提出する。長期的には、権利性の明確な『生活保障法』の制定を実現しなければならない」と提起し、まとめとした。

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