2025年07月11日 1878号

【無農薬に切り替えて3年/おいしい 安全なものを提供したい/兵庫県豊岡市在住農業者/判田明夫】

 2021年、私の田んぼの近くに作った人工巣塔に2羽のコウノトリが降り立ちひなをかえした。今年で4回目のひな誕生。

 コウノトリ育むお米―減農薬で田んぼにはオタマジャクシやゲンゴロウが泳ぎまくる。無農薬に取り組む体力を考え、「今だ!」と、2023年に野菜もすべて無農薬に切り替えた。単純においしくて安心できるものを食べたいのだ。

毎年が新人

 無農薬に変えていきなりコナギという雑草が田んぼに生い茂った。農薬を投入していただけでほとんど発生しなかったコナギが、勢いよく生え出てくる。無農薬転換の年の収量は、前年度、減農薬で30`148袋だったが84袋に減った(田は117アール)。 

 2023年、JAと豊岡市の共催する「有機農業教室」に参加(月1回の講習と実技指導)。12月には「保田ボカシ(米ぬかなどを発酵させた有機肥料)で育てる無農薬のイネづくり」講習会に参加した。

 コナギ対策で有効なのは中耕除草だ。中耕除草機でコナギの芽を地中からかき出し水に浮かせる。歩行しながら機械を稲の条間で動かしていく。規模の大きな農家は乗車型で8条分を一度に行う。わたしは2条の歩行型だ。一日中田んぼにへばりつくと夜中足がつる。保田ボカシの肥料投入は機械では無理なので手まきしなくてはならない。2024年は収量が99袋まで回復した。今年度の稲は元肥(もとごえ)をすべて保田ボカシに変えた。

コウノトリもの「も」

 減農薬は一般米より75%農薬を減らす。農薬の指定、投薬量の規制がある。無農薬はゼロ。カメムシ対策で畔(あぜ)の草刈りの実施。投入する肥料の指定、冬水田んぼ、早期湛水(たんすい)(水を張る)、中干(なかぼし)延期(オタマジャクシが肺呼吸できるまで水を抜かない)、深水管理などの決まりがある。

 2006年発足したコウノトリ育むお米生産部会は学習会や農作物を栽培する圃場(ほじょう)点検、会員の拡大に取り組んできた。2023年度で無農薬が84個人・法人、減農薬が225個人・法人である。コウノトリの野外放鳥を目指すコウノトリ郷公園の地元の農家が2003年に無農薬にチャレンジしたのが最初である。2005年コウノトリの野外放鳥から現在300羽までコウノトリは増えている。

 「コウノトリも」という「も」には、コウノトリが住める環境はすべての生き物も、人間も豊かにするという強い信念がある。生産者の意欲を維持するためにJAはコウノトリ米を一般米の倍の価格で買い取り続けた。コウノトリ米部門は、10年間は赤字が続いたが耐え続け、ブランド化と販路の拡大を行政と一体となって取り組んだ。

 今では沖縄の大手スーパー「サンエー」、通販サイト、海外にも販路を広げ、供給が追いつかなくなっている。

適正価格って何?

 「おいしいものを、安全なものを、消費者に提供したい」という思いがあるからこそ、「時給10円」でも農家は頑張っている。零細高齢農家が食を支えている。

 保水、環境、消費者の安全、食糧安保―稲のもたらす恩恵に「適正価格」などあるのだろうかと私は思う。NHKの番組で、60円の卵より80円の卵を買ったスイスの少女は「これを買うことで生産者の皆さんの生活も支えられ、そのおかげで私たちの生活も成り立つのだから、高くても当たり前でしょ」と答えている。

 農業者と消費者の絆を強くすることが、令和の米騒動≠フ解決を導くのだと思う。





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