2025年07月11日 1878号

【「日本人ファースト」を掲げる参政党/極右台頭の波が日本にも/憲法構想が示す全体主義志向】

 「日本人ファースト」をキャッチフレーズに掲げる参政党が勢力を広げている。先日の東京都議選では3議席を獲得。兵庫県尼崎市など3市の議会選挙では同党の公認候補がトップ当選を果たした。彼らは何者なのか。排外主義的な主張がなぜ支持されるのか。

外国人叩きで急伸

 参政党は、現代表の神谷宗幣(元大阪府吹田市議)が運営していたユーチューブチャンネルを母体として、2020年4月に結党された。党名には「『参加』できる『政治』を作る」という意味がある。

 2022年の参院選で神谷が比例区で当選し国政政党となった。2024年の衆院選では比例で3議席を獲得。地方議会でも勢力を広げており(所属議員は現在150人)、全国47都道府県に支部組織がある。

 時事通信の6月世論調査によると、政党支持率は2・5%に上昇。日本維新の会やれいわ新選組を上回った。東京23区と政令指定都市に限ると3・6%で、自民党、立憲民主党に次ぐ3位だった。年代別にみると、中年以下の世代で支持が伸びている。

 都議選での躍進について、神谷は「キャッチコピーの『日本人ファースト』が有権者の胸に刺さっているのではないか」と分析する。「外国人の社会保障や教育支援にお金かけすぎなんじゃないのと不満を持っている国民もたくさんいる」というのである。

 実際、公営住宅の抽選に落選した品川区のシングルマザー(37)は、その住宅に外国人とみられる家族が住んでいるのを見て「まずは日本人とその子どもを大事にして税金を使ってほしい」と思ったと語る。これまで選挙とは無縁だったが、参院選では参政党に投票するという(6/25朝日)。

 JX通信社の米重克洋代表は「物価高で生活が苦しい中、自分たちに使うべき税金を外国人に使われているという感覚があるのではないか」と見る。欧米諸国では経済状況の悪化を背景に、「移民排斥」や「自国第一主義」を掲げる極右政党が台頭している。参政党はその日本版成功例とみていいだろう。

正体を巧妙に隠す

 とはいえ参政党に「凶暴なネオナチ」や「品性下劣なネトウヨ」といった印象はない。選択的夫婦別姓制度反対の急先鋒ではあるが、ウェブサイト等のレイアウトをみるとジェンダーバランスを気にかけている様子がうかがえる。

 要するに、若者が敬遠する「活動家」臭や「旧態依然のオヤジ」臭を消しているのである。また、「子育て支援の充実」や「食の安全確保」といった生活重視の姿勢、「消費税の段階的廃止」や「行き過ぎた民営化策の見直し」など左派的な政策も掲げている。

 こうした政策をネットなどで見て「良いことを言っている」と感じる人もいるだろう。早合点してはいけない。参政党に対する評価は同党が掲げる「新日本憲法(構想案)」をじっくり読んでからにしてほしい。その内容は「むき出しの国家主義」という点において、あの自民党憲法草案(2012年版)を上回る。

自由や権利の保障なし

 参政党憲法案は第1条で「日本は天皇のしらす(治める)君民一体の国家」と規定し、主権は「国」が有するとしている(第4条)。自民党でさえ認めた「国民主権」の否定だ。

 「国民の要件」を規定した第5条をみると、「父または母が日本人であり、日本語を母国語とし、日本を大切にする心を有することを基準」に法律で定めるとある。誰が判定するのかは不明だが、「日本を大切する心」がないとみなされた者は文字どおりの「非国民」になるらしい。さらに同条2項は「国民は、子孫のために日本をまもる義務を負う」と定めている。国家を守る義務は日本人の必須条件であり、「平和的生存権」にもとづき戦争に反対することなど許されない、と言いたいのだろう。

 日本国憲法は「個人の尊重」(第13条)を至高の価値としているが、参政党案にそうした条項はない。それどころか国民の自由と権利を具体的に定めた条文が皆無に等しいのだ(第8条で「主体的に生きる自由」ほか1つを認めただけ)。

 法の下の平等、奴隷的拘束及び苦役からの自由、思想・良心の自由、信教の自由(政教分離)、表現の自由、学問の自由、労働基本権の保障、財産権の保障、裁判を受ける権利の保障…。民主主義国家の憲法なら必ず保障している国民の権利や自由を参政党案はことごとく無視している。

 なぜか。国民は国家に対する義務を果たすことが第一で、その妨げになる基本的人権の保障は必要ないと考えているからだ。これはもう「戦前回帰」どころではない。カルト宗教的な全体主義国家を参政党は目指しているのである。(M)

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