2025年07月18日 1879号

【2025参院選/社会主義をめざす一歩に/経済格差は資本主義ではなくならない/軍拡反対、大企業・富裕層課税を】

 7月20日投開票の参院選。過去2回の投票率は48・80%(2019年)、52・05%(22年)。衆院選もあわせた国政選挙はここ数回、50%台前半で推移している。半数近い有権者は投票を見送った。特に40代以下の若い世代は投票率が平均より低い。政治を変える第一歩は政策選択の投票だ。「誰に投票すれば社会はよくなるのか」。ともに考えてみよう。




500倍の格差

 格差社会と言われて久しい。だが、「手取りを増やす」と主張する政党は増えても、格差を生み出している経済システム、資本主義制度の転換をめざす政党は限られている。

 経済格差の端的な例を一つ。過去最高の営業利益5・35兆円を記録したトヨタ自動車(5/8発表)。豊田章男会長の24年度役員報酬は19億4900万円だった。トヨタの正社員の平均年収(40・6歳)は約900万円。非正規労働者「期間工」の年収はその3分の1程度の350万円。会長には現場労働者の500倍以上の報酬が支払われている。驚きの格差だ。

 だが、トヨタはこの額でも「ドイツなどの他の自動車メーカーの水準と比較するとまだ低い。上げていかなければ業界としての魅力を維持できない」(6/18毎日)と言っている。役員報酬の多寡が資本主義における求心力だというのである。

 日本企業の役員報酬算定方法は急速に欧米式に近づいている。端的に言えば株価連動型。企業価値は株価が示し、それを高めた「功績」は役員の手柄だとする。トヨタでは会長報酬は前年度から20%アップしたが、正規労働者でさえ賃上げ率は5・72%(25春闘)に過ぎなかった。これで政府もマスコミも「大幅賃上げ」というのだからどうかしている。実際に生産した労働者の賃金にはこの業績が反映しないのだ(6面参照)。

 これが資本支配による搾取であり、格差の源泉だ。年収1億円を超える経営者は880人、10億円超は15人(7/5日経)。役員報酬以外の収入、持ち株の配当などもはるかに多い。その他収入を含めれば、最高額は188億7300万円(24年10月26日東洋経済オンライン)。生涯収入ではなく、1年間の収入なのだ。

所得の再分配を

 労働者への分配を増やすには、労働者が大幅賃上げを勝ち取ることが必要だが、政治に求めるべきことは、強力な所得の再分配を行わせることである。経済格差をなくすには富裕層の高い山を削って、低所得者層の深い谷を埋める政策がセットで必要だ。

 高い山をより多く削るための税の徴収方法をみる。たとえば選挙の争点となっている消費税。与党の自公だけが一切減税に応じない。消費税は低所得者に負担が重くなる不公平税制の一つである。一時的税率引き下げではなく、廃止すべき税だ。「一時金支給」は、一時的に低所得者の所得を増やすとはいえ、不公平税制の構造を根本から変えるものではないことは言うまでもない。

 公平な税負担とは能力に応じて負担することであり、富裕層ほど多く納税することだ。だが、累進課税である所得税は、消費税導入(1989年自民党竹下内閣)以前、最高税率70%だったが、現在55%まで下がっている。特に、1億円以上の収入がある富裕層は税負担が減っていく「1億円の壁」がある。金融資産を分離し、低い税率が適用されるからだ。「103万円の壁」は話題にしても、この富裕層優遇策を問題視する政党は少ない。

 法人税も同じだ。過去43・3%あった基本税率を現在23・2%にした。さらに、輸出額が大きい企業は税の「還付」が受けられる。トヨタへの消費税還付額が1兆円以上(23年度)になった。「消費税」は輸出企業にとったら、納めるものではなく、タダで受け取れるものなのだ。

 現在、税収に占める割合は消費税が最大32%となり、法人税25%は所得税29%よりも少ない。労働者が生産した付加価値総額(GDP)のうち労働者への配分(雇用者報酬)は5割程度にもかかわらず、税負担は消費税を含めれば企業の倍ほどになる。

 消費税廃止、大企業、富裕層に応分の負担を求める政策を掲げる政党、候補者を見極めることが必要だ。


共産党・社民党候補へ

 谷を埋める政策はどうか。GDPのうち徴税により政府に移転される付加価値は13%程度の77・8兆円。これをどう使うかだ。当然、社会保障の充実に優先的に配分することが、格差の是正に向けた政策になる。

 ところが、政府の優先配分先は軍事費だ。軍事費だけGDP2%と決めている。この政府支出は軍需産業の利益に還元されるものだ。さらにGDPの5%への引き上げともなれば、その額は30兆円。25年度の予算規模に当てはめれば、政府一般支出68・1兆円の44%が軍事費に消えることになる。当然、社会保障費38兆円は大幅に縮小を迫られる。

 軍事費の拡大は、所得の再分配効果を消しさり、さらに軍需企業へと利益を移転する役割を果たすものであり、格差拡大要因になる。

 石破茂自民党総裁は選挙の討論会でも「核武装した体制の異なる国に囲まれている」と軍事費拡大に意欲的だ。軍拡に反対しない政党は、「国益」という資本の利潤を守ることを優先しているからだ。

 ロシアのウクライナ侵略をきっかけに、世界的インフレが起きた。インフレは同等以上の賃金引き上げがえられなければ、労働者の購買力を奪う。

 パレスチナで、イランでいとも簡単に軍事力が使われる。多くの市民の命が奪われ、街が破壊されている。戦争は生産活動を妨害し、死の商人に市場を提供するだけだ。人の命さえ、利潤に結びつける資本主義の最も醜い顔だ。

 「どこに投票すれば社会は変わるか」。経済格差は資本主義を終わらせ、経済システムを転換しない限り、解消しない。いま社会主義の実現をめざす政党は日本共産党、社民党の他はない。軍拡に反対し、不公平税制の解消を掲げる両党の候補者が勝利することが、社会を変える一歩になる。

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 米国ニューヨーク市長選民主党予備選挙で、州知事経験者を抑え、新人のゾーラン・マムダニが勝利した(3面記事)。彼はDSA(アメリカ民主主義的社会主義者)として選挙を戦い、労働者の信頼を得た。

 資本主義がもたらした格差を「解決する道」として、虐げられたもの同士をいがみ合わせる右翼的な党派が支持を集める現象が世界的に起きている。日本にもそんな潮流が生まれようとしている(8面参照)。だが、本当の原因を明らかにする活動は、労働者の共感を得、勝利することができることを示している。

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