2025年07月18日 1879号

【DSAニックのアメリカレポート/ニューヨーク市長選の民主党予備選/DSAマムダニが歴史的勝利/社会主義と5万人ボランティアの力】

 6月下旬、ニューヨーク市長選の民主党予備選挙でDSA(アメリカ民主主義的社会主義者)の一員、ゾーラン・マムダニが歴史的な勝利を成し遂げた。

 マムダニさんは2020年に当選した現職ニューヨーク州下院議員だが、選挙戦序盤の世論調査では支持率わずか1%とほとんど無名の状態から選挙活動を開始した。しかし、マムダニ陣営はDSAニューヨーク支部と協力し、5万人のボランティアを動員する大規模な選挙活動を展開して、民主党が無視してきた労働者階級の人びとの支持を獲得することに成功した。

DSAとしての立候補

 マムダニ勝利は、DSAが近年推進してきた、いわゆる「幹部候補モデル」による選挙運動で、最大の成功を収めたものと言える。

 DSAは、2016年のバーニー・サンダースの大統領選挙運動以来、多くの左派候補者の公職選出を支援してきたが、これらのキャンペーンの多くは外部候補者の推薦だった。

 これに対して近年、DSA内部から候補者を立てる動きが各支部で広がっている。こういった「幹部候補者」はDSA内で活動の経験が長く、民主主義的社会主義の考えを広めてDSAを拡大させることを目的に選挙に挑む。マムダニさんは幹部候補者の1人だ。

 彼は2017年にDSAに入り、ニューヨーク支部の地方選挙運動などで活動をしていた。その後、ニューヨーク州議会議員選挙にDSAの候補として選出され、2023年のDSA全国大会では基調講演者も務めた。マムダニさんは市長選出馬にあたり、支部の支持がなければ立候補しないと明言していた。選挙活動を開始して以来、彼はDSAの複数のイベントに参加し、ニューヨーク支部が行っている新メンバー勧誘イベントなどで演説している。

労働者の要求を掲げ

 選挙運動中、マムダニ候補は民主主義的社会主義者であることを公言し、労働者階級の経済問題を選挙活動の中心に据えている。

 主要政策は、ニューヨーク市の家賃安定型アパートの家賃凍結、市営バスの無料化と高速化、利益追求よりもコスト削減に重点を置いた市営食料品店ネットワークの構築、生後6週間から5歳までの住民を対象とした無料保育プログラムの実施などである。

 これらの費用を賄うためには、ニューヨーク市の大企業と、年間100万ドル以上を稼ぐ最も裕福な1%の住民への課税率引き上げを提案している。

戸別訪問160万軒以上

 マムダニ陣営の最も印象的な戦略の一つは、前例のない数のボランティアを巻き込み規模を拡大し、民主党に見捨てられてきた労働者階級の人びとの支持を求めたことだ。

 地元紙のマムダニ陣営取材によると、陣営は支持者のボランティアを5万人以上登録し、そのうち3万人以上が戸別訪問や電話かけ運動に参加した。ボランティアたちは戸別訪問で160万軒以上の住宅を訪れ、住民と約25万回選挙について会話をすることができた。これらの数字に基づくと、マムダニ陣営は、市長予備選挙で投票した有権者の約4分の1に連絡をとれたこととなる。

 このボランティアの大群は、見過ごされがちな労働者階級の層への働きかけを行った。この選挙では、去年の大統領選挙でドナルド・トランプに支持が傾いた労働者階級や移民の多い地域で大きな躍進を遂げた。

 また、若者や新規有権者の歴史的な参加ももたらした。ニューヨーク・タイムズ紙によると、選挙登録締め切りの14日前までに3万7000人以上の新規有権者が登録した。これは前回の市長予備選挙の同時期の10倍以上に相当する。若者の投票率も歴史的な水準に達し、期日前投票者の40%以上が40歳未満だった。

資本家階級の攻撃

 しかし、資本家階級からの攻撃は既に始まっている。

 マムダニ候補が、大企業と富裕層に支援された元ニューヨーク州知事アンドリュー・クオモ候補を破ったことは、アメリカの主要メディアで広く報道された。ウォール街や金融資本の懸念に関する報道も多い。億万長者のヘッジファンド・マネージャー、ビル・アッカーマンは、11月の総選挙に無所属で出馬する現職のエリック・アダムス市長を支援するため、数億ドルを投じると約束している。

 もちろん、大統領もマムダニ攻撃を行っている。トランプは「マムダニは共産主義者」と言い放ち、彼の移民ステータスの合法性を疑問視し、ICE(移民税関捜査局)の大量送還キャンペーンに協力しない場合は逮捕すると脅迫している。

 一方、予備選以降、民主党の有力政治家の一部がマムダニ支持を表明しているが、戦争推進派の民主党員からは彼のパレスチナ支持を批判する声も出ている。

社会主義は勝利できる

 マムダニ陣営とDSAニューヨーク支部の勝利は、DSAに即座に影響を及ぼした。全国政治委員のローラ・ワドリンのツイートによると、マムダニ候補が選出されてから1週間で2393人がDSAに加入した。これは、昨年秋のトランプ大統領再選後に記録した2613人の増加数にほぼ匹敵する。他の州で地方選挙に立候補しているDSAメンバーの後押しになることも期待されている。

 我々DSAは、ゾーラン・マムダニのような社会主義者を何十人、何百人と当選できるように拡大していけなければならない。全米最大の都市で勝てるのであれば、社会主義はどこでも勝てるはずだ。

 筆者のニック・ワトキンスさんは、全米最大の社会主義団体DSAのワシントン州スノホミッシュ郡支部メンバー。7月26〜27日のZENKOin相模原(さがみはら)にはDSA国際委員会のアンリン・ワングさんが参加する。





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