2025年07月25日 1880号
【参院選の最中にオスプレイ配備/中国を敵とした戦争準備/政治家の歴史捏造はその一環】
|
今回の参院選で有権者が最も重視した政策は「景気・物価対策」であった。それは当然のことなのだが、日本の未来を決める重要な争点がかすんでしまった感は否めない。日本全土で急速に進む軍事要塞化、すなわち中国を仮想敵国とした戦争準備の問題だ。
佐賀に配備する意味
参院選の応援で石破茂首相が佐賀県を訪れた7月9日、陸上自衛隊の輸送機V22オスプレイが陸自佐賀駐屯地に正式配備された。陸自が運用する17機はこれまで木更津駐屯地(千葉県)に暫定配備されており、8月中旬までに全機の移駐を終える予定だという。
ヘリコプターとプロペラ機の特徴を兼ね備えたオスプレイは、速度や航続距離で大型ヘリを上回る。また、飛行場が整備されていない離島や海上に展開する艦艇でも発着できる。陸自が佐賀駐屯地にオスプレイを配備すれば、全長約1200キロにわたる琉球弧(南西諸島)全域を行動範囲に収め、機動的な部隊展開が可能になる。
念頭にあるのは、「台湾有事」における中国軍との戦闘だ。自衛隊の駐屯地がある石垣島や宮古島、与那国島などが武力攻撃を受けることを想定し、陸自幹部は「島しょ部に部隊を早期に展開する必要がある」とオスプレイ配備の理由を語る(7/10琉球新報)。
その主任務は長崎県佐世保市に拠点がある離島防衛専門部隊「水陸機動団(水機団)」の迅速な輸送である。対中国の最前線となる島々に水機団を投入し、防衛や反撃に当たるのが基本的な運用構想なのだ。
共同通信によると、米軍と自衛隊は「台湾有事」の際の共同作戦計画を昨年12月中に策定したという。有事の切迫度が高まった初期段階で、高機動ロケット砲システム「ハイマース」を装備した米海兵隊の部隊を琉球弧の島々に展開し、中国軍艦船の動きを封じ込める作戦だ。自衛隊は弾薬や燃料の提供など後方支援を担うとされる。
昨年10月下旬から11月初めに行われた日米共同統合演習「キーン・ソード25」では、米軍のハイマースが石垣島に持ち込まれ、与那国島にはオスプレイが飛来した。また、全国の民間空港や港湾を米軍や自衛隊が使用している。このような実動訓練を経て、対中国戦争の共同作戦計画が策定されたのだろう。
空自が攻撃のシナリオ
さらに恐ろしい事態が想定されている。4月6日付の産経新聞は、米軍と自衛隊が昨年2月に行った日米共同指揮所演習「キーン・エッジ24」の概要が判明したと報じた。記事によると、台湾に侵攻する中国軍艦艇に対し、自衛隊機がミサイル攻撃を行う判断が下されたという。
この演習は中国が台湾侵攻に着手するシナリオの下で、陸海空自衛隊を一元的に指揮する統合作戦司令官が存在する前提で進められた(統合作戦司令部が実際に発足したのは翌3月末。演習はその先取りという意味合いがあった)。
具体的にみてみよう。中国軍は台湾に侵攻するとともに米軍佐世保基地などを攻撃。日本政府は個別的自衛権を行使する条件となる「武力攻撃事態」の認定は見送ったが、「台湾有事は日本の存立を脅かす」として「存立危機事態」と認定した。集団的自衛権にもとづき武力を行使する条件を整えたということだ。
これを受け、米軍は台湾海峡を航行する中国軍の強襲部隊を攻撃するよう日本側に要請。航空自衛隊の戦闘機が空対艦ミサイルで中国軍の輸送艦を攻撃するという筋書きだ。これが現実のものとなれば、中国軍は自衛隊基地や弾薬庫などの破壊を企てるだろう。日本全土がミサイル戦争の舞台になるということだ。
沖縄戦の再来
こうした作戦計画は、米海兵隊が掲げる新たな部隊運用の指針「遠征前進基地作戦」にもとづいている。敵の攻撃能力の脅威が及ぶエリアにある島々などに機動力のある小規模な部隊を分散展開させ、米軍の主力部隊が接近できる環境を作り出すという作戦だ。
「台湾有事」の場合、米軍と自衛隊は琉球弧の島々を盾にして、米軍の増援部隊が到着するまでの「時間稼ぎ」を行うことになっている。敵の攻撃を受け大きな犠牲が生じることを前提としており、その犠牲には島を生活の場とする民間人も含まれる。
琉球弧を「捨て石」とした時間稼ぎの持久戦――まさに沖縄戦の再来ではないか。「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓をあらためて思い浮かべる人も多いだろう。それが戦争勢力にとっては目障りでならない。沖縄戦における日本軍の行動を正当化する政治家の発言が相次いでいるのはこのためだ。
相次ぐ歴史歪曲
6月25日、那覇市議会は戦後80年の市議会平和宣言を可決した。沖縄戦は日本軍の「戦略持久戦」で、軍人より住民の戦死者が上回っていると説明。「この冷厳な事実こそが、沖縄戦の最大の教訓として『軍隊は住民を守らない』とされてしまう理由」と指摘した。
この内容に反発し退席した議員がいる。自民党の大山孝夫市議だ。大山は元航空自衛官で、対馬丸記念館の展示にクレームをつけた一件が記憶に新しい(本紙1876号8面参照)。
7月10日には参政党の神谷宗幣代表が参院選の応援で那覇市を訪れ、「日本軍の方々は沖縄県民を守りに来た」「その人たちが戦ってくれたから本土復帰もできた」と発言した。いずれも歴史的事実に反することは言うまでもない。
だが、神谷のような歴史修正主義者は決めつけ発言を確信犯的にくり返している。「嘘も百回言えば真実になる」というやつだ。自民党が衰退に向かう中、極右デマゴギー集団が戦争準備の役割を補完しようとしている。歴史の捏造を許してはならない。 (M)

 |
|