2025年08月01日 1881号

【JRの今/相次ぐトラブル 完成しない新幹線/ローカル線とサービスは切り捨て/再国有化を】

 国鉄分割民営化で1987年4月に発足したJRも38年が経過した。1949年6月に発足し、分割民営化まで続いた旧国鉄の歴史は37年10か月。JRは国鉄の歴史を超えた。そのJRの現状を確認する。

工事も列車も進まない

 北海道新幹線の新函館北斗〜札幌間の延伸は、北側で羊蹄(ようてい)山の下を掘る羊蹄工区でシールドが固い岩盤に阻まれ止まっている。南側では函館市に近い工区で軟弱地盤が見つかり工事が遅れている。施工主体の鉄道・運輸機構は、当初2035年の開通見込みを2038年に変更。道内では2040年代にずれ込むとの見通しも公然と出ている。

 敦賀(福井県)まで開業した北陸新幹線は、決まったはずの小浜(おばま)―京都ルートの変更を求める反対運動が激しさを増す。京都仏教会は昨年末、小浜―京都ルートの建設は「国宝、重要文化財への影響も大いに危惧」され「千年の愚行」だとする申入書を府知事に提出、署名活動もしている。

 リニア中央新幹線は、大井川からの流量減少問題への対処を求める静岡県の動きを受け、最大の焦点の南アルプストンネル静岡工区を含め未着工のトンネル工事が16か所もある(今年6月時点、ジャーナリスト樫田秀樹さん調べ)。JR東海は、当初2027年としていた開業時期を「明言できない」と大幅に後退した。

 先行開業区間(武雄温泉〜長崎)が「離れ小島」状態のままの西九州新幹線も、フリーゲージトレイン(軌間可変式電車)計画の失敗で在来線を走行させる当初計画が頓挫。鳥栖(とす)(佐賀県)〜長崎の全線を新幹線方式に切り変える国の案は佐賀県がルート案に同意せず宙に浮く。2040年代に入っても現状のまま新幹線が1駅も延伸できない可能性さえ出てきた。

 延伸どころか、ここ最近は運転中の新幹線ですら事故・トラブルが相次ぐ。昨年だけでも東北新幹線で併結運転された「はやぶさ・こまち」の連結器が走行中に外れる事故が二度起きた。山形新幹線にデビューした「最新鋭」E8系車両の急停車トラブルも相次ぐ。東京―山形間の直通運転は3往復を除き中止。利用客が福島駅で乗り換える姿は、1992年の山形新幹線開業前に戻ったかのようだ。

 尼崎脱線事故から今年で20年。JR内部での事故風化も、列車運行能力の劣化も隠しきれない。いずれ大事故発生は避けられない。

窓口も地方路線も廃止

 国土交通省の資料等によると、鉄道路線の廃止が許可制から届出制に切り替えられた2000年以降、全国の廃止路線は1275・3qに及ぶ。ここ10年はJRローカル線の廃止が進む。特に北海道では、JRが廃線を表明したいわゆる「赤線区」5路線のバス転換が2026年3月末の留萌本線(深川〜石狩沼田)を最後に終了する。本州でも、津軽線一部区間(青森県/蟹田(かにた)〜三厩(みんまや))、美祢(みね)線(山口県)全線のバス転換が決まった。

 2023年の改正「地域公共交通活性化再生法」に基づく鉄道事業」再構築協議会」設置第1号となった芸備線(備中神代(びっちゅうこうじろ)〜備後庄原(びんごしょうばら))では、増便による乗客数の推移を見極めるための実証実験が7月から始まる。実施期間を11月までの4か月とするJR西日本に対し、広島県は1年間の実施を求めており、せめぎ合いが続く。

 実証実験で乗客増加が見られなかった場合、廃線が浮上する恐れもある。目先の乗客数や収支だけでなく、地域社会の維持など鉄道・公共交通が持つ「多面的価値」を認めさせる協議にできるかがポイントになる。

 JR各社は、コロナ禍以降、駅窓口削減などサービス低下の動きを強める。特にJR東日本は駅窓口「7割削減」を打ち出した。利用客の強い反発で見合わせているが、高齢者や外国人など機械操作に不慣れな利用客が増加する今、きめ細かな対面サービスを提供できる窓口はむしろ増強すべきだ。

民営化検証と再国有化

 新幹線の安全・安定運行に赤信号が灯り、駅でのサービスもローカル線も切り捨てられる。これらはすべて「利益の見込めない部門には投資しない」民間企業の論理が生み出した。その背景に民営化がある。

 JR38年間を検証し、再国有化を目指すときだ。



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