2025年08月01日 1881号
【コラム 原発のない地球へ(25)/台湾で原発ゼロ実現】
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2か月前の5月17日、おとなり台湾では最後の稼働原発が運転を停止し、原発ゼロが実現した。1978年来6基動いていた原発が50年近く経ってすべて止まった。深夜の台湾電力本社ビルの壁には、No nukes Taiwan、No nukes Asiaの文字がライトアップされ、市民は歓喜に沸いた。現地に出向いた6・17最高裁共同行動実行委員会代表の水戸喜世子さんは「大歓声の中、私はあふれる涙が止まりませんでした。隣にいた台湾の女性が固く抱きしめてくれました。11年前、激しい放水に耐え抜いて座り込んだ数万の台北駅前の市民の姿が思い出されました」
現在与党の民主進歩党は結党以来「脱原発」を党綱領に掲げるが、最大野党の国民党などは原発維持を主張している。与野党が常に拮抗(きっこう)していながら原発ゼロを実現させたのは、台湾市民の運動だった。そして市民運動に影響を与えたのが戒厳令解除以降の民主化運動と2011年福島原発事故だった。1949年5月19日以降38年続いた戒厳令が解除(1987年7月15日)されたことで民主化運動が促進され、市民運動は全国に広がり、いずれの政権も市民の声を無視できなくなった。
2011年福島原発事故では危機意識を募らせた。当時の馬英九(マーインチウ)国民党総統政府は同年11月に、龍門(ルンメン)発電所(第4原子力発電所)を2016年までに完成させる一方で、既存の原子炉計6基は40年の運転期間満了後に段階的に閉鎖していく政策を明らかに。その後も龍門発電所建設中止の抗議運動が激化したことから2014年4月、ほぼ完成していた1号機の運転を停止し、2号機は建設中止を決定した。
2016年、代わって発足した民進党の蔡英文(ツァイインウェン)政権は2025年までの「非核家園」(原子力発電のないふるさと)の実現を決定し、天然ガス50%、石炭30%、再生可能エネルギー20%で原子力0%とする発電量構成の目標を掲げた。
しかし原発ゼロはスムーズに進んだのではない。電力不足問題が深刻化し、産業界は安定的な電力供給を求め政府に見直しを要請。2025年までに全ての原発運転を停止する法規の是非を問う住民投票では、法規廃止賛成が反対を約180万票上回り、この法規定は削除された(2018年)。それでも、2021年の龍門発電所の建設再開の是非を問う住民投票では、建設再開が反対多数(52・8%)で否決されている。
現在、電源構成比が5割を占める天然ガスは燃焼時の二酸化炭素などの排出量が極めて少ないため注目されているが、99%が輸入に頼り電気料金が値上がり。中国の軍事演習で液化天然ガス基地施設の利用が制限され安定供給への不安も付きまとう。そんな中、国民党は5月13日に原発稼働期間を40年から60年に運転延長する法案を可決させた。
島国の台湾は、日本同様に太陽光、風力、水力等再エネの資源は豊富だ。再エネ拡充への抜本的な政策転換を図らなければならない時だ。
(Y)
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