2025年08月01日 1881号

【みんなで作るワークショップ/弱さを吐き出し、生きる力に変える/『いのちの絵から学ぶ』を手がかりに/山内若菜さん】

 ZENKOin相模原2日目、絵描き・山内若菜さんの「お話とワークショップ」がある。どんなワークショップになるのか。若菜さん自身が語る。

 ワークショップとは「みんなで表現を吐き出し、お互いの違いを認識しあいながら共に良くなっていくような作業である」。『いのちの絵から学ぶ』に私はこう書きました。6月末、横浜のある高校でおこなったのは、まさにそんなワークショップでした。

 学内に“カースト制”があり、カーストのトップは誰と決まっていて、「私は“上”の“下”」「この子は私より“下”」と見定めているらしい。“強者に憑依(ひょうい)”されたがる子も多いようです。

心でつながり合う

 作品の中にミジンコの絵がありました。描いた子は「私、メンタル、ミジンコなんで」。でも、その子はカーストの“上”の方らしく、“強者”がそう言ったから他の子は「えーっ、そんなこと思ってたんだ」とびっくり。誰もが弱さを持っている。完ぺきではない。そこが、心の内側が、見えてきた。心でつながり合ったんですね。

 「メンタルが弱い」「人の視線が気になる」と生徒たちは言います。人と違うことをすると叩かれる。SNS上で“公開処刑”される。いつも“普通”でいなきゃいけないストレスを抱えている。それをワークショップで吐き出すと、みんな「この世界はそうだよね」「メンタル、豆腐にもなるよね」と自分の弱さに気づいて、「じゃあ、どうしようか」と話し合える。仲良くなります。

 それは言葉ではできません。言葉はいくらでもいじれるけど、絵はほんとの、裸の自分です。生(なま)の自分が描いたものだから、すべてが出る。表現に不正解はない。大事なのは、描いたあと、どんな気持ちで描いたのか、どういう部分が自分の弱さなのか、一人一人語ってもらうことです。

 青い嘴(くちばし)を持つ小鳥を描いた子は「私は口下手。そこを強調したくて、嘴をしっかり青く描いて飛ばしたんだ」と。その嘴がとても魅力的でした。弱さと思っているところを一所懸命描く。“口下手”を“青い嘴”で表現したのがすごい。弱さこそ強さだ、とそのとき私は思いました。

カツーンと掘り当てる

 一人一人、個性はみんな違う。ワークショップは、その個性、自分の色、形を見つけ出す作業です。他者との違いを感じながら、自分の中に埋もれているすばらしい原石を掘り当てる。人には必ずあります、ダイヤモンドだったり黄金だったり。それをカツーンと掘り当てる。でも一人ではできない。他者と一緒にやることで表出されるんです。

 表現には反転作用があります。死が生に反転する。闇が光に変わる。強者に憑依されていたら、何も生まれない。弱さをまず認める。苦しいのを閉じ込めないで表に出す。みんなの前で「私にはこんな弱さがある」と言う。すると、隠れていた自分の力が見つかる。それが逆に強みだと気づきます。

 第五福竜丸展示館での「ふたつの太陽」展。それは「場との共振」でした。私は船と共振しながら成長できた。船の声をずーっと聴いているようで、帰る時いつも「さよなら。みんな喜んでる?」と会話していた。揺れ合う、揺さぶられ合う、そしてもがく、もがきあぐねてまた描く。それが私の絵描きとしてのスタンスなんだと思いました。

 弱さを認め、吐き出し、人の弱さを自分ごとのように感じとり、「苦しみは生きもの同士みんな同じだ」とつながり合う。そこがワークショップのいいところです。ぜひお越しください。



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