2025年08月01日 1881号

【参政党742万票獲得の衝撃/憲法案が示す極右の本性/人権を抑圧し、戦争国家化を加速】

 今回の参院選で議席を大きく増やした参政党。神谷宗幣代表は「参院選は通過点。その後の衆院選で政権の一部を担う規模になって、新しい国の政治を作っていきたい」と豪語した。「日本人ファースト」を掲げる極右政党は日本をどうしようとしているのか。

政権参加の可能性

 参政党は14人が当選した。比例代表では約742万票を得て7人が当選した。政党別の得票数では第3位となり立憲民主党を超えた。選挙区では、東京、神奈川、愛知、大阪などで7人が当選した。この結果、参議院の議席数は非改選1と合わせて15となり、党単独でも法案を提出できる条件(提案者を除く10人の賛成)をクリアした。

 神谷宗幣代表は「次の衆院選で50〜60議席を取って、連立内閣の一角を占めるポジションを目指したい」と政権参加の意欲を示した。自公政権との連立については「今のところ全く考えていない」と否定したが、次期衆院選の結果によっては「組む可能性はある」と語った(7/20)。欧州諸国における極右政党の政権参加が日本でも現実的な危機となったということだ。

人権条項が欠落

 とはいえ「日本人ファースト」の主張はすっかり有名でも、参政党の極右たるゆえんが世間に認知されているとは言い難い。彼らは「どんな国を目指し、どんな社会を築きたいのか」。同党が今年5月に公表した「新日本憲法(構想案)」からみていこう。

 憲法を「一から創り直す」というだけあって、日本国憲法の三大原則(国民主権、平和主義、基本的人権の尊重)を参政党案は跡形もなく消し去ってしまった。そもそも「国家権力への歯止め」という近代憲法の体をなしていない。

 たとえば、「国は、主権を有し」(第4条)とある一方、国民に主権があるとはどこにも書いていない。人権保障に関する条項も見当たらない。第8条で、国民は「主体的に生きる自由」と「健康で文化的な尊厳ある生活を営む権理」を有するとしているだけだ。

 日本国憲法との比較で言うと、個人としての尊重を至高の価値とし、生命、自由及び幸福追求権を保障した第13条に相当する規定がない。「法の下の平等」を定めた条文もない。「人種、信条、性別、社会的身分、門地」による差別を明確に禁じている日本国憲法とはあまりに違う。

 「思想及び良心の自由」「信教の自由(政教分離規定)」「表現の自由(言論の自由)」「職業選択の自由」「学問の自由」を保障した条項も存在しない。労働者の団結権、団体交渉権、団体行動権も書かれていない。

 刑事手続きに関する人権規定もない。日本国憲法に刑事人権保障に関する条文(31条〜40条)が並ぶのは「戦前に人権侵害が多く起こった実態に対する反省の表れ」(参院憲法審査会)なのだが、参政党案はそうではないということだ。


国家への忠誠を強要

 人権保障の条項が欠落している一方、国民の義務や規範は細かく規定している。国民の要件に「日本を大切にする心を有する」ことを求め、「子孫のために日本をまもる義務を負う」とした第5条がそうだ。国策に反対したり協力しない者は、文字どおりの「非国民」ということか。報道機関には国策に従うことを義務づけている(第16条)。

 教育を受ける権利には言及している(第9条)。だが、その内容は「古典素読」や「神話」「修身」を必修とし、「教育勅語など歴代の詔勅(しょうちょく)(天皇の命令を伝える公文書の総称)」を尊重するというもの。「愛国心教育」の押しつけだ。

 子育て重視が売りの参政党らしく「子供は国の宝」(第7条2)と定めているが、国の役割は親の責任を「補完する」ものでしかない。また、同条3項は同性婚を否定し、夫婦は同姓と定めている。外国人政策では「外国人の参政権は認めない」「帰化人は三世代を経ないと公務に就けない」といった規定を設けている(第19条1〜4項)。

 そして、平和主義の否定だ。自衛軍の保持が明記され、「緊急やむを得ない場合」は国会の承認を後回しにして自衛権を発動できることになっている(第20条)。武力行使を実質的にフリーハンド化することが狙いとみていい。

危険な発言の数々

 憲法案に示された参政党の基本姿勢(国家観)を頭に入れた上で、同党の参院選公約や選挙期間中の発言をふり返ってほしい。

 公約では「延命治療の全額自己負担化」を掲げた。国家の重荷になる者、カネのない者は早く死んでくれ、というわけだ。「日本人ファースト」と言いながら、日本人の間では命に序列をつけるのである。

 神谷代表は「われわれは反日の日本人と戦っているんだ」と強調した(7/18岐阜市での街頭演説)。同党が「日本人」と認めない者は排除するということだ。実際、政治活動や言論の弾圧に猛威をふるった戦前の治安維持法を「悪法だっていうけど、共産主義者にとっては悪法でしょうね」と正当化した(7/12鹿児島市内での街頭演説)。「極端な思想の公務員は辞めてもらわないといけない。これを洗い出すのがスパイ防止法です」(7/14松山市での街頭演説)と、トランプ米大統領ばりの「粛清」まで口にしている。

 東京選挙区で当選したさや候補は、日本テレビの配信番組(7/3)に出演した際に「核武装が最も安上がり」と語った。憲法案で「外国軍を国内に常駐させない」(第21条2)とうたう背景には、独自核武装の野望があるということだ。

 このように、参政党は極端な国家主義と排外主義を本質とする極右政党にほかならない。同党が政治的影響力を増すことは極めて危険である。戦争国家化の加速や人権保障の後退に直結するからだ。   (M)

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