2025年08月08日 1882号
【「殺さない権利」を求めて(11)非暴力・無防備・非武装の平和学/前田朗(朝鮮大学校講師)】
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1921年の非武装化条約によってオーランド諸島は軍隊のない島になりましたが、当初、オーランド諸島民は不満を募らせました。もともと住民はスウェーデンへの編入を希望していました。しかも、フィンランド政府とスウェーデン政府、そして国際連盟で議論が進められ、住民の頭越しに決定がなされたからです。しかし、非武装中立と住民自治を手にしたオーランド諸島政府は新たな道を模索しました。
第1に平和の島オーランドの戦略的地位の重要性です。グレートゲームの時代、バルト海は紛争の海でした。オーランド諸島は周辺諸国の利害によって戦場とされました。非武装化を周辺諸国に承認させることでオーランドを平和の島にすることが重要視されました。オーランド諸島平和研究所を設立し、平和学と紛争解決学のセンターとしました。オーランド方式を紛争解決の一つのモデルとして理論化し、平和研究の出版に力を入れました。国連欧州本部やEU議会が置かれた施設等に出かけて平和セミナーを開催し、諸外国に紛争予防、紛争解決、平和構築、人道尊重の普及を進めてきました。『オーランド諸島からの報告』という報告書シリーズに加えて、最近は雑誌『自治・安全保障研究誌』を発行しています。
第2に住民自治です。1921年にフィンランドはオーランド諸島の住民自治の強化を承認しました。1951年の自治法により自治権が拡大しました。他の自治体には認められない特別の権利が保障されました。
自治権の基礎にすえられたのが住民権(島民権)です。住民権には、選挙権、被選挙権、不動産取得権、営業権が含まれます。住民権がなければ、島での不動産取得も店舗の営業も困難です。住民権は、両親のいずれかが住民権を有している子ども、またはフィンランド国籍を保有し、オーランドに合法的に5年以上居住し、かつスウェーデン語の十分な能力のある者に認められます。逆に5年以上外に居住すると住民権が失われます。
公用語はスウェーデン語です。フィンランドの公用語はフィンランド語とスウェーデン語ですが、両者は文法構造がまったく異なる別の言語です。フィンランド政府とオーランド自治政府の協議、フィンランド政府から送付する文書、フィンランドの高等裁判所での審理などもすべてスウェーデン語を用いることになっています。
フィンランド憲法はヘルシンキのフィンランド議会の権限で改正できますが、オーランド自治法はフィンランド議会だけでは改正できず、オーランド議会の承認を必要とします。改正手続きは憲法よりもオーランド自治法のほうが難しいことになります。
自治の一例として切手発行権を見てみましょう。オーランド自治政府は1984年に切手発行権を獲得しました。オーランドではフィンランド切手は使えず、郵便局の運営も自治政府に委ねられています。首都マリエハムンで郵便ポストに投函した葉書はたしかに東京に届き、私の友人に配達されました。 |
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