2025年08月15日 1883号
【ニューヨーク市長選(25年11月)民主党からゾーラン・マムダニ/社会主義者が最有力候補に/DSA(アメリカ民主主義的社会主義者)アンリン・ワンさんに聞く】
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米国最大都市ニューヨーク。11月に予定されている市長選を前に、民主党内で行われた予備選挙(6/24)で、DSA(アメリカ民主主義的社会主義者)のゾーラン・マムダニ(33歳)が勝利した。社会主義者であり、パレスチナ支持を掲げる青年活動家が勝利した要因は何か。来日したDSA国際委員会のアンリン・ワンさんに聞いた(7月27日、構成、まとめは編集部)。

マムダニの政策は
「マムダニの選挙キャンペーンで最初から最後まで一貫していたのは、『ニューヨークを住みやすくする』というシンプルなメッセージでした。ニューヨーク市の政治家がこれまで触れたがらなかった政策にも、一切後退することなく踏み込みました。特に民間企業の有力者を恐れて、だれも触れなかった政策です」
マムダニは、家賃凍結、バス無料化、保育料無料化、地域安全局の設置、食料品価格引き下げを目的とした公立スーパーマーケットの建設、大企業・富裕層への増税などを掲げている。高い家賃と保育料が、ニューヨークに住めなくしている。市民は法外なレベルの生活費に苦しんでいる。
マムダニは「2030年までに最低賃金30ドル」実現のプランも示している。最低賃金の決定は州議会の権限だが、現在、ニューヨーク州議会下院議員であるマムダニは州憲法の「自治の原則」に基づき市に権限を付与する法案を提出している。
「右派の人びとでさえ、マムダニの提案には好意的でした。誰一人としてインフレや家賃急騰の影響を受けていない人はいません。有力候補だったアンドリュー・クオモ前ニューヨーク州知事は『(マムダニの)政策は非現実的だ』と言っていましたが、予備選で負けた後は『住宅の手ごろな価格について真剣に考えている』と言い始めています。でも具体策は持っていません」
マムダニは「労働者のために闘うことは非現実的だといつも言われてきた。しかし、家賃凍結や最賃引き上げなどは、今のニューヨーク市民が当然受けるべき最低限の権利であることを私たちは知っている」と語っている。
勝利の要因は
「私自身はマムダニ選挙に深く関わってはいませんが、一つには、左派連合のような動きができたことだと思います。組織は一致団結しました。二つには、本人の努力が大きかった。世論調査で支持が伸びると、民主党左派の有力者との連携が生まれました。三つめは、地域での訪問活動。地道な活動です。
左派連合と言っても、具体的な団体というわけではなく、より広い意味です。米国の左派は多くの人は組織に属していません。左派的な考え方の人びとが、マムダニに共感して、支援に動いたということです」
選挙はDSAニューヨーク支部が全力で戦った。支部員は1万人と言うが、ボランティアには5万人が登録し、3万人が戸別訪問・電話かけのスタッフとして活動した。選挙運動の現場責任者によれば、160万回の戸別訪問、24万7000回もの有権者との対話を行ったという。有効投票数の4分の1になる。昨年12月から、対話のシナリオをつくり、400人のリーダーを養成し、訪問活動を行い、その情報でシナリオをさらに練り上げた。戸別訪問で、ボランティアを希望する人と出会い、拡がった。マムダニのメッセージが非常に多くの共感を呼び、実現への緊急性が伝わったからだ。
「有名なパレスチナ料理店が数日間、ボランティアに食事を無料提供してくれました。
パレスチナのジェノサイドに反対する者は誰であろうが反ユダヤ主義と批判されます。これは何年も前からです。選挙期間中、ユダヤ人地域への訪問活動も行い、マムダニ自身もシナゴーグ(ユダヤ教会)に出向き、リーダーと会っています。重要なのは、選挙に出るから急に始めたことではなく、数年も前からユダヤ人指導者と交流をもっていることです。
極右的な入植者団体がNPOとして登録し、政府はユダヤ文化を支える普通の団体として認め、資金援助を行う。実際は、パレスチナ人への攻撃資金になるわけです。マムダニは州議会にこれを禁止する法案を提出しています」
マムダニが23年5月、州議会に提出した法案は、イスラエルの入植地活動への資金提供を禁止し、このNPOの税控除資格を剥奪することなどを定めるものだ。年間6000万ドル(約87億円)が税控除により、公的資金が拠出されていることになる。
反シオニズムを表明するマムダニに対する攻撃は、勝利の可能性が高まるにつれ強まった。だが、まったくブレることはなかった。
若者の動向は
「マムダニには魅力があります。今回の選挙キャンペーンは16年のバーニー・サンダースの時とどこか似たところがあります。
15年〜22年頃、20歳前後の若者世代は非常に左傾化していました。単に『正しいこと』を言う候補ではなく『当選の可能性がある』と見なされることで、普段政治的関心がない人でも『支持しよう』と考えます。
ですが、『実現可能な選択肢』がないと、政治的期待は右派に流れます。バイデン大統領は、テクニックとして『非常に進歩的な』キャンペーンを行いました。バーニー支持層の票を得るためです。ですが、たとえば『学生ローンの帳消し』策は、大統領になっても何もしませんでした。若者はそれを見ています。24年の大統領選では、20年の時より多くの若者がトランプに投票したと思います」
ニューヨーク市の人口約850万人のうち、民主党の有権者登録は600万人にのぼる。有権者の大多数は民主党支持者だ。11月の本選では、共和党の候補の他、現職市長と今回敗退したクオモ前州知事が無所属で出馬する。シオニストや民主党主流派からの攻撃、妨害が強まる可能性がある。DSAニューヨーク支部は社会主義者の市長誕生に向け、一層奮闘する。
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1993年生まれのアンリン・ワンさんはマムダニと同世代。DSAの中ではベテランの部類だという。APIPA(アジア太平洋諸島政治同盟)というNPOで働いている。
16年の大統領選挙でバーニー・サンダースの支援、戸別訪問活動などを実践。他の政治団体が主催する活動家養成研修を受けた。会議議題の作り方や初対面の人との会話や大勢の人に語りかける方法など得るところが多かったという。
国際連帯の意義についてメッセージを求めた。
「今後も連携を深め、協力を続けていきたい。米国は戦争へと向かっており、双方の人びとを傷つけます。戦争を止めることができれば、地球全体に影響を与えている気候変動に目を向けることができるでしょう」

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