2025年09月05日 1885号
【コラム・原発のない地球へ(26)/ヒロシマ・ナガサキとフクシマ】
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世界各地で侵略・戦争が続く中での、被爆80年の8月6日ヒロシマ、9日ナガサキ。憲法9条を有し、戦争被爆国である日本から世界への発信は注目されたが、広島・長崎両市長のアピールに比べて、石破茂首相の言葉がいかに陳腐なものであったか。
広島・松井一實市長は平和記念式典で「世界中で軍備増強の動きが加速している。こうした現状に強くとらわれ、『自国を守るためには、核兵器の保有もやむを得ない』という考え方が強まりつつある」と「核抑止論」を批判。若い世代に対し「軍事費や安全保障、核兵器のあり方は、自分たちの将来に非人道的な結末をもたらしうる課題であることを自覚していただきたい。自分よりも他者の立場を重視する考え方を優先することが大切」と共存を呼びかけた。そして、日本政府には「国際社会の分断解消に向け主導的な役割を。来年開催される核兵器禁止条約の第1回再検討会議にオブザーバー参加していただきたい」と、参列した各国代表を前に訴えた。
長崎・鈴木史朗市長は「武力には武力を、の争いを今すぐやめてください。このままでは核戦争に突き進んでしまう」と危機感をあらわに。「『地球市民』という言葉には、人種や国境などの垣根を越え、地球という大きな一つのまちの住民として共に平和な未来を築いていこうという思いがある。はじめの一歩は相手を知ること。対話や交流を重ね、互いに理解し、小さな信頼を重ねていく」と市民の役割を訴えた。日本政府には「1日も早く核兵器禁止条約へ署名・批准してください。北東アジア非核兵器地帯構想などを通じて、核抑止に頼らない安全保障政策への転換に向け、リーダーシップを」と呼びかけた。
一方、広島であいさつした石破首相は短い発言の中で「核兵器のない世界」を3回連呼。しかし、ウクライナ戦争やガザ侵略、核兵器禁止条約に触れることはなく、「『核兵器のない世界』に向けて、土台となるのは、被爆の実相に対する正確な理解だ」と、地元の声に応えないピント外れの無神経さを見せた。
この時期、政府の意向に応えて関西電力は福井・美浜原発での原発新増設を発表。この動きに8月5日、原発事故被害者らが被害県である福島県に対し、「原発の新設は事故の教訓を無視し、被害者をないがしろにするもの。知事は(被害県の代表として)、関電の方針は受け入れられないと表明してください」と要請した。この場に内堀雅雄県知事は出席もせず、対応には課長級しか現れず、「原子力政策は一義的には国が検討すべきもの。過酷な原発事故を2度と起こしてはならない決意のもと、事故の現状と教訓、住民の安全安心を踏まえることが重要と、国内外に発信している」と返答した。広島・長崎両市長とはかけ離れ、被ばく自治体の長がとる対応ではない。
広島・長崎市長も元は官僚出身で、市民運動を背景とした首長でもなく、内堀知事と同様の立場だ。ヒロシマ・ナガサキとともに、フクシマの被ばく体験を後世に伝えていく歴史的役割を放棄した内堀知事は厳しく追及されてしかるべきだろう。(Y)
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