2025年09月12日 1886号

【対話をつくる「思いやり」の力/「伝えることの難しさ」に挑戦/山内若菜と描くワークショップ】

 2025ZENKOin相模原2日目の7月27日、「みんなで吐き出し、生きる力へ 山内若菜と描くワークショップ」が行われた。「チーム若菜」の室生祥さんが報告する。

 目的は「絶望を希望に変える表現の反転作用」を体験することでした。下地が施されたA4のクラフト紙に水彩鉛筆で描き、ウエットティッシュでぼかす技法を教わり、各自画面に向かいます。テーマは「生きづらさを動物に例えて描いてみよう」。出来上がった作品を山内さんの大きな絵に貼り付けて各自が思いを発表、講評をうけました。

 10人が参加し、「若菜さんの話を初めて聞いた。作品にこめた思いや自分の弱さを語ってくれたり…」「絵を描くのは苦手で、正直困ったが、楽しかった。『こうするべき』『これはしてはだめ』などのルールは無い中で、どのような思考で取り組めば楽しめるか?と考え、勉強になった」と好評でした。

市民の手による絵画展

 チーム若菜の歩みは2021年にさかのぼります。この年4月に丸木美術館で開かれた「はじまりのはじまり」展を見た藤沢市民が「地元でも」と実行委員会を立ち上げ、6月「はじまりのはじまりin藤沢」山内若菜展を開催。市民が資金集めや会場押さえ、宣伝だけでなく、会場が本来は絵を展示する場ではなかったため、巨大絵画を吊る装置、木枠、照明まで準備し、「市民会館が美術館と化した」「展覧会は力を合わせればどこでもできる。作品の良さが引き出された」と言われました。これに協力したZENKOの仲間が「市民の手による美術展を広げよう」と呼びかけ始まったのが、チーム若菜です。

 最初の取り組みは21年12月に横浜市鶴見区のサルビアホールで開催した山内若菜展「おわりははじまり」でした。以来、(1)若菜さんの活動を広く社会に知らせ、(2)その活動を経済的に支えるために展示会の宣伝、参加、スタッフ、イベントでのグッズ販売、集会美術などを行ってきました。24年5月には横浜トリエンナーレの一環として再びサルビアホールで山内若菜「予感展」が実現。21年の展示会の実績が認められてのことでした。

 昨年11月、山内さんの著書『いのちの絵から学ぶ』が出版されました。今回はその出版記念でもあります。ZENKO会場では、第五福竜丸展示館「ふたつの太陽」展で発表され、核兵器禁止条約締約国会議で展示された「被災船」、被ばくの事実をどう受け止めるかを自身に問いなおした「被爆80年 私を想像し描く山内若菜絵画展」を展示し、コンサートでは活動報告「感性でつながり合える表現・抵抗の文化」を発表する機会をもらえました。

観た人の声拾いながら

 チーム若菜は月1回のリモート会議を欠かさず、山内さんの提案、思いつき、悩みなどを受け止めて自由に論議し、可能な限り具体的な役割分担、方針の確認をしてきています。それが今回、役に立ちました。

 山内さんから「わたしの絵は本当に必要とされているのだろうか」という問いかけがよくあります。自分を最も表現できる大きな絵を展示できる会場が限られること、メッセージ性のある作品が必ずしも多くの人に受け入れられるとは限らないことなどが理由でしょうが、根本は「伝えることの難しさ」だと思います。

 伝えたいと思うからこそ、伝わらないもどかしさがつのる。以前、沖縄の音楽家・海勢頭豊さんに「芸術は思想信条が違う相手に思いを伝える『思いやり』なんだ」と言われました。山内さんの作品は考え方や感じ方の異なる人との対話をつくり出す基盤、普遍性を伝えるものではないかと思いをめぐらせ、この言葉を反芻しています。

 相手の存在そのものを否定する差別・排外主義が強まる中で、平和と民主主義の実現のためには一人ひとりが対話をつくり出す「思いやり」の力を身につけることが必須です。しかし創作を続けながらその価値、意義を見出すのは大変難しく、頭がパンクします。これからも観た人たちの声を拾い、山内さんの活動の意味をチームで確かめ合って次に進みたいと思います。





MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS