2025年09月12日 1886号

【臨時国会の焦点に急浮上/スパイ防止法案提出か/戦争反対の排除、抑圧が狙い】

 「スパイ防止法」が秋の臨時国会の焦点に浮上している。参政党の神谷宗幣代表は法案の提出を目指すと表明。高市早苗を長とする自民党の調査会も制定検討を求める提言をまとめた。一連の動きの背景には、戦争国家づくりに不可欠な情報統制の意図がある。

参政が目指すと表明

 先の参院選で14議席を獲得し、単独で参議院への法案提出が可能となった参政党。神谷代表は早速、秋の臨時国会に「スパイ防止法案」の提出を目指す考えを表明している。同党は参院選の公約に「日本版『スパイ防止法』等の制定」を掲げていた。

 国民民主党や日本維新の会、日本保守党もスパイ防止法や関連法の整備を参院選の公約にしていた。政権与党の自民党はどうか。公約ではスパイ防止法に言及しなかったが、高市早苗・前経済安全保障担当相が会長を務める調査会が5月に提言をまとめ、同法の導入に向けた検討作業の推進を政府に求めている。

 つまり改憲勢力がこぞって、スパイ防止法の制定を喫緊の課題にあげているのだ。参政党が国会に法案を提出すれば、事態が一気に進むおそれがある。

思想チェックと排除

 いわゆるスパイ防止法については、自民党が1985年に最高刑を死刑とする「国家秘密法案」を議員立法で提出したが、言論の自由をはじめとする基本的人権を侵害するとの反対世論に押され、廃案に追い込まれた経緯がある。

 この「国家秘密法案」には次のような問題点があった。▽防衛・外交にかかわる「国家秘密」の内容が広範囲・無限定であり、行政当局の恣意的専断でいくらでも広がること▽調査・取材活動、言論・報道活動、日常的会話等のすべてが処罰対象となりうること▽合理的な根拠を欠く極端な重罰であること、等々。

 では、参政党が「法制局とも相談しながら検討している」というスパイ防止法案はどのような内容なのか。具体的には示されていないが、神谷代表自身の発言をみれば、「スパイ防止」を名目にした弾圧立法であることは明らかだ。

 神谷は7月22日の会見で「スパイ防止法で思想統制をするつもりはない」と言いつつ、「昔、共産主義者がやっていた天皇制の打破とか国体の破壊とか、そういうことを言って実際に計画したり行動すること、もしくはそういう団体に情報を流すことに問題があり、それをチェックする法律をつくらなければならない」などと主張した。

 参院選中の街頭演説(7/14松山市)では、公務員の思想調査と排除にスパイ防止法を活用すると公言した。「官僚、公務員。そういった極左の考え方を持った人たちが浸透工作で社会の中枢にがっぷり入っている。極端な思想の人たちは辞めてもらわないといけない。これを洗い出すのがスパイ防止法です」

 戦前の弾圧法規で、日本を戦争に導いた治安維持法まで神谷は正当化している。「悪法だと言うが、共産主義者にとっては悪法でしょうね。彼らは皇室を打倒し、日本の国体を変えようとしていたからです」(7/12鹿児島市での演説)

 たしかに治安維持法は天皇制と私有財産制を守ることを保護法益としていたが、取り締まりの対象は無制限に広がり、共産主義とは無縁な団体や個人も標的とされた。侵略戦争を遂行するための言論封じに猛威をふるったということだ。

 スパイ防止法制定の動きが今なぜ浮上しているのか、理由は明白だろう。戦争準備の一環である戦争政策の危険性を暴き反対する者に「スパイ」のレッテルを貼って排除したり、萎縮効果で抑えつけることが自民や参政などの狙いなのだ。

社会の萎縮招く

 戦前の日本には、軍機保護法、軍用資源秘密保護法、国防保安法といった国家秘密保護法制が存在した。特に軍機保護法はスパイ防止の中心になった法律だ。

 戦時下の治安体制に詳しい荻野富士夫さん(小樽商科大名誉教授)は「満州事変が31年に起き、やがて総力戦体制に移行していくのですが、36年から軍機保護法違反事件が立て続けに紙面を飾り、『日本はスパイ天国』といったキャンペーンが張られるのです」(8/26毎日夕)と指摘する。

 こうした「スパイ防止」キャンペーンは人びとが萎縮する社会を作り出した。「戦争や軍事は『知るな、見るな、話すな』という事なかれ主義におちいるとともに、スパイ防止という名目で、国民が戦争の現実を直視する機会を奪うことになったのです」(同)

 すでにネットでは「スパイ防止法に反対するやつはスパイだ」式の危険な言説がとびかっている。スパイ防止法が戦争準備の一環であることを暴き、反対の世論を広げる取り組みが早急に求められている。(M)

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