2025年09月19日 1887号

【2026概算要求にみる軍拡・社会保障削減方針/武器を捨てろ 命を守れ】

 2026年度予算編成に向けた概算要求が各省庁から出された。一般会計の要求総額は122兆円台。3年連続過去最大だ。石破自民党総裁辞任後の政権動向が見通せない中でも、「軍拡、社会保障費削減」の方針は変わらない。少数与党にすり寄る政党がどの組み合わせになろうとも、この路線を変えることはないと官僚は思っている。そうであってはならない。軍事費を削れ、社会保障費を大幅に増額せよ。市民生活を守る予算に転換させよう。


やりたい放題 軍事費43兆円

 防衛省の来年度概算要求額は8・8兆円超。軍事3文書・防衛力整備計画の4年目、要求額を加えた累計は35・5兆円。5年間で43・5兆円とする総額の8割を上回る。

 巨額の軍事費は、第2次安倍政権時の米国兵器爆買い、岸田政権時の「GDP比2%」基準により、一気に膨らませたものだ。

 たとえば「統合防空ミサイル防衛能力」。5年間3兆円の計画だが、4年目で3・26兆円に達する。これは設置を断念した陸上イージス・システムを転用するために特製艦船を急きょ発注(24年0・37兆円)したことが大きい。「イージス・アショア」は17年にトランプ米大統領と安倍首相(当時)の首脳会談で決めた「首相案件」。「イージス艦より稼働率がいい」とへ理屈を付け正当化したが、結局、艦船に載せる以外になくなった代物だ。

 こんな「無計画執行」が許されるのは、使い道に困るぐらいの軍事費「43兆円ありき」だからだ。

 だが、軍拡競争に上限はない。防衛省が重点要求のトップにあげる「無人アセット防衛能力」は25年予算の3倍近い額(0・31兆円)が要求されている。多種多様な攻撃ドローン(航空機・水上艇・潜水艇)を揃え、一元管制システムの構築を急ぐ。防衛省は「短期間で大量に取得可能な状況が到来」したとうたう。ガザやウクライナでの「実力」を見ているのは間違いない。

次はGDP比3% 軍拡まっしぐら

 軍拡競争の典型と言えるのは「スタンド・オフ防衛能力」(要求額約1兆円)だ。「敵の防空圏外の安全な場所からの攻撃を可能とする」という長射程ミサイル。敵の防衛能力が高まれば、さらなる長射程化が求められ、防空システムを突破する極超高速弾などの開発に向かう。

 戦争で「攻撃されずに攻撃する」ことなどありえない。あるとすれば、先制攻撃で敵を全滅させる以外にない。この危険をはらむ長射程ミサイル(地上発射型)と高速滑空弾の配備が今年度末から始まる。来年度には極超音速誘導弾の量産を始める。

 射程距離を1000`bに能力アップした12式地対艦ミサイルは陸上自衛隊健軍駐屯地(熊本)をはじめ、海上自衛隊横須賀基地(神奈川)、航空自衛隊百里(ひゃくり)基地(茨城)へと順次配備し、27年度にはすべての「敵基地攻撃」ミサイルが実戦配備される。

 弾薬庫整備も692億円と今年度(336億円)の倍額を要求している。防衛省は大湊基地(青森)、大分分屯地には長射程ミサイル用の大型弾薬庫新設を公表しているが、130棟増設の内容を明らかにしていない。14棟を増設する祝園(ほうその)分屯地(京都)では、形ばかりの住民説明会で工事を強行した。地域の不安は大きい。

 組織強化も狙っている。来年度は防衛副大臣を増員、航空自衛隊を航空宇宙自衛隊に改編強化を図る。宇宙・サイバー・電磁波など情報戦の体制を強化する。「太平洋防衛構想室」の新設などが続く。これらは、次期防衛力整備計画(28年度〜)を見据えたものと言ってよい。すでに政府はGDP比2%超を想定した防衛力整備計画改定作業前倒しを表明(8/12)。来年末に閣議決定というスケジュールを描いている。

 22年からの軍事費倍増の5年間で、「専守防衛」の建前をかなぐり捨てた自衛隊。次の防衛力整備計画では一層侵略軍としての形を整えるつもりだ。軍本体だけでなく、5年間で1・4兆円を見込んだ軍需産業の強化費、軍事研究費がさらに増額されるに違いない。兵器共同開発、武器輸出を拡大し、自国の軍需産業育成に本腰を入れるつもりだ。


生活保護切り下げ違法判決を無視

 増額に制約のない軍事費と対象的なのが社会保障費だ。8月に閣議了解された概算要求基準では「年金・医療等については、前年度当初予算にいわゆる自然増(4000億円)を加算した範囲内で要求」とされた。高齢化に伴い必要となる額以内の増額しか認めないのでは、制度充実の余地はない。しかも、自然増の額が適切に算出されているかあやしい。厚生労働省には前科があるからだ。

 今年6月27日、最高裁判所(第三小法廷宇賀克也裁判長)は、政府が13年から3年間にわたり行った生活保護基準の引き下げを違法と断罪した。引き下げの根拠とした「物価の下落」は政府が結論に合わせ「偽装」したものだったことなどが暴かれた。専門家会議の審議を経ず、厚生労働大臣の裁量で引き下げたことも違法とされた。

 違法判決を受け政府は、引き下げ措置を白紙撤回し、減額した生活保護費全額を支給する義務を負っている。当時で700億円以上の額になる。概算要求に反映させることもできた。だが政府は専門家で審議すると逃げた。違法行為の是正に専門家の審議など必要としないのは当たり前だ。

 厚生労働省は「最高裁判決への対応に関する専門委員会」を設置し、8月13日に1回目、29日に2回目を開催。訴訟当事者の意見を聞いたが、審議過程は公開されない。湯水のように支出する軍事費と比べ、命を守るための社会保障費支出にはきわめて高いハードルが用意されているのだ。


軍縮、社会保障拡充を要求しよう

 安倍第2次政権が始まる13年は、生活保護費の引き下げと同時に、それまで減少していた軍事費を増加に転じさせた年でもある。軍事費の拡大は社会保障の切り下げがセットになって進むことを象徴している。

 この時の生活保護の引き下げには仕掛けがあった。12年、お笑いタレントの母親が生活保護を利用しているとバッシングが沸き起こった。これを煽ったのは当時野党だった自民党の「生活保護プロジェクトチーム」座長であった世耕弘成議員や片山さつき議員だった。自民党は12月の総選挙で「生活保護10%引き下げ」を公約に掲げ、政権復帰した。厚労省はそれに従い、引き下げを行ったのだ。

 安倍政権を継いだ菅政権は「自助」を言い、岸田政権は5年で軍事費倍増を決めた。そして今、排外主義が煽られている。次の軍拡を受け入れる世論をつくろうとしていることは間違いない。

 今言うべきは「武器を捨てろ」「命を守れ」だ。「武器」がガザでウクライナで毎日人を殺しているのを目の当たりにしてもなお、「武器」で平和を守れると考えるのはどうかしている。「武器」を捨て、外交に全力を注ぐことだ。GDP比2〜3%の予算を福祉や医療・教育などに上積みすれば、市民の「安心・安全」を格段に高めることができる。そういう政治を求めているのだ。 
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