2025年09月19日 1887号

【未来への責任(421)今問われる日本政府 強制動員企業】

 8月23日、韓国の李在明(イジェミョン)大統領が就任後初めて来日し石破茂首相と首脳会談を行った。会談では日韓関係を未来志向で安定的に発展させることを確認。石破首相は歴史認識について、朝鮮植民地支配への痛切な反省と心からのおわびを表明した「日韓共同宣言」(1998年)を含め歴代内閣の立場を引き継いでいると表明したが、日韓が合意した5項目(共同発表文)では、日本軍「慰安婦」、強制動員問題などは言及されなかった。

 このことをとらえて多くのメディアは「日韓双方が良好な関係を維持し、ともに発展していくための出発点としたい」(8/24読売)、「過去より未来に軸足を置いたのは評価できる」(8/24日経)などと書き立てている。

 しかし、李大統領が訪日前から、政権が変わっても国と国との取り決めは尊重し継承すると言っていたのは合意内容が十分だったから継承すると言っているわけではない。

 李大統領は来日前に行った読売新聞のインタビュー(8/21朝刊)で、「強制徴用(元徴用工訴訟の解決策)は韓国国民として非常に受け入れがたい前政権による合意ではあるが、国家としての約束であるため覆すことは望ましくない」と述べている。他方、「日本としても同じことを繰り返さないことが国益に見合うはずなのに、事実を否定したり、被害者に対して過酷な態度を見せたりした。根本的に日本の国益にならないと思う」と日本がとってきた対応を批判した。その上で、日本に対し、「強制徴用という歴史的に不当な事実が実際にあったのかどうか、すなわち、現実認定の問題が第一。二つ目に、もしそれが事実だったならば、悔しい被害者に対して真剣に心を尽くしたおわびをするのが正しい」と指摘している。李在明大統領は日本自身が何をすべきなのかを指し示したのである。

 いま問われているのは日本側の対応である.

 2015年12月の「慰安婦」合意で、日本政府は10億円を支出するだけではなく、「日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒しのための事業を行う」と約束していた。しかし、履行していない。強制動員問題で韓国政府は「解決策」(第三者弁済)を提起しつつ、日本政府に対し「誠意ある対応」「コップ半分の水を注ぐこと」を求めた。日本政府、被告企業は何もしていない。

 このような日本の側の姿勢、対応が問題解決への道を閉ざしている。

 石破首相はかつて自分のブログでこう述べていた。「大きなリスクを背負ってまでも日韓関係を改善させたいという尹大統領の思いに誠実に応えなくてはなりません」「日本国民の真摯で誠実な気持ちが韓国国民に伝わるかどうかの問題」(2023年3/17)だと。そうであれば、石破首相はせめて強制動員企業に対し被害者への謝罪、財団への資金拠出を促すべきではないのか。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)
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