2025年09月19日 1887号
【読書室/戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない/赤根智子著 文春新書 950円(税込1045円)/所長みずから語る戦争犯罪と国際法】
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ウクライナ戦争の首謀者プーチン。ガザでのジェノサイド首謀者ネタニヤフ。2人に逮捕状を発布したICC(国際刑事裁判所)所長みずからICCを通じて見えた戦争犯罪と国際法の重要性を説いた一冊。
ICCは2002年に設立され、日本を含む125か国が加わっている。「麻薬撲滅作戦」と称し無差別に市民を殺害したドゥテルテ前フィリピン大統領が、ICCの逮捕状に基づき逮捕されるなど成果も挙げる。
だが、そのICCが今、最大の危機にある。プーチンが赤根所長らを指名手配し、トランプがネタニヤフへの逮捕状発布に対する「報復制裁」をICC検察官らに科したからだ。制裁対象の検察官は米国への入国も送金もできなくなり、ICCの将来を悲観し離職する職員も出ている。ICCそのものが米国の制裁対象となれば、ICCの業務システムが米国製のこともあり業務は完全停止する。
ユーゴスラビア内戦での戦争犯罪や、ルワンダでのジェノサイド犯罪を裁く国際法廷などの経験をもとに常設の国際刑事法廷ICCは生まれた。米ソ冷戦が崩壊、世界を二分する大きな戦争もなく、120か国以上が国際刑事裁判所を作ろうと力を合わせることができた1990年代。「歴史の狭間で幸運にも誕生することができた」。ICCをもし失えば「現在の国際情勢で同じことはできない。ICCを守り抜くことが私の役割」だと赤根さん。
戦争犯罪防止に消極的な日本政府の現在の姿勢で国際法への貢献は難しい。言葉の真の意味で「法の支配」を守るため、日本に必要なのはジェノサイド条約への加入だ、というのは当然すぎる指摘だ。 (C) |
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