2025年09月26日 1888号

【原発立地財政支援を30`圏に拡大/柏崎刈羽の再稼働を後押し/「原発利権」推進許さず廃炉を】

 政府は8月29日、原子力関係閣僚会議を開催し、「原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法」(振興法)に基づく財政支援対象を、従来の原発周辺10`圏から30`圏に拡大することを決定した。市民生活に不可欠な医療・福祉・教育・農業等への財政支出は渋りながら、原発再稼働予算は拡大する自公政権を許してはならない。

「原発利権」拡大へ

 振興法では、対象地域に指定されると「原発立地地域振興計画」を作成する必要がある反面、この計画が国に認可されることで様々な「メリット」がある。

 例えば、道路や港湾、教育施設などを建設する「特定事業」に対する国の補助率が50%から55%にかさ上げされる。他分野での補助率は事業費の50%が一般的であり、原発への不当な優遇策であるのは明らかだ。

 原発事故発生時の避難道路整備費用の補助を10`圏から30`圏に拡大することに関しては、一定程度やむを得ない面はある。だが、原子力規制委員会は今年6月、原発事故発生時に即時避難とする区域を事故原発から5`圏内に絞り、5`圏外で30`圏内の区域は屋内退避を原則とする原子力災害指針を決定している。

 福島第一原発事故では、放射性物質による高汚染が観測された福島県飯舘(いいたて)村のように、30`を超えても避難区域となったことを考えると大幅な後退だ。

 このような指針を決めながら、一方で避難道路整備費の補助率だけを引き上げる国の姿勢からは「住民は避難させないが、避難用道路名目でゼネコンの利権だけは確保したい」という本音が見える。落ち目の自公政権によるグローバル資本への露骨な利益誘導以上の意味は見いだせない。

30`圏の「不満」背景

 そもそもこのような矛盾に満ちた原発利権拡大方針が、ここに来て打ち出された理由は何か。

 福島原発事故以降、国は、原発から30`圏内をUPZ(緊急防護措置を準備する区域)に位置づけた。合わせて、UPZ内に位置する自治体に対し避難計画の策定を義務づけた。

 原発から10`圏外で30`以内の自治体は、立地自治体として扱われず、財政上の優遇措置もない。その一方で、福島事故を見れば非現実的であることが明らかな避難計画の策定だけを強いられる。事故が起きれば避難計画も機能しないまま、飯舘村のように放射性物質の直撃を受ける事態さえあり得るのだ。

 実際、津軽海峡越しに大間原発(青森県、電源開発が建設中)を見渡せる北海道函館市は、そもそも青森県内自治体ではないため、原発運転に関する同意権を持たないことになっている。にもかかわらず、30`圏内であるため避難計画の策定だけを義務づけられるのは「整合性に欠ける」として、市みずから建設差し止めを求め、電源開発を提訴した。提訴当時の市長はすでに引退しているが、提訴のための議案を、市議会で自民党会派を含む全会一致で議決した経緯もあり、訴訟継続に異議を唱える動きは見られない。


原発「札束推進」復活

 現在、関西・四国・九州の3電力会社の区域にある原発は反対の声を押し切りすべてが再稼働を終えている。「東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に向けた新チーム」設置と同時に打ち出されていることは、今回の再稼働支援策の拡大が柏崎刈羽(新潟)を念頭に置いていることがわかる。その先には東海第二(茨城県)や泊(北海道)などの各原発の再稼働につなげる狙いがあることはいうまでもない。

 今回の支援策拡大によって、対象は現在の14道府県76市町村から22道府県150市町村とほぼ2倍に増える。「福島」以前のように、原発事故への不安・不満を抱える地域の「頬を札束で叩いて黙らせる」原子力行政の復活だ。

 立地自治体の原発依存をさらに深め、経済的自立の機会も奪う。電力消費地である大都市と、危険や被害を押しつけられる地方との分断も強まる。このようなことに使う予算があるなら、市民生活に回すべきだ。

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