2025年09月26日 1888号

【ガザでの虐殺にAIが拍車/イスラエルの標的生成装置/住民データで殺害リスト作成】

 AI(人工知能)の軍事利用が急速に進んでいる。なかでもイスラエルはAIを使った兵器やシステムの実戦投入で世界の先を行く。ガザでの住民殺戮や占領地での弾圧に使っているということだ。その背景には、米国の巨大IT企業の影が見え隠れする。

危険度をランク付け

 AI技術などを使って殺傷する自律型致死兵器システム(LAWS)の規制をめぐる国際会議が昨年3月、スイスのジュネーブで開催された。会議では、パレスチナ代表が「ガザで殺戮の任務を加速するのにAIを使っている」とイスラエルを指弾。イスラエル代表が「人間の関与なしに攻撃対象を選ぶAIシステムは使っていない」などと反論する場面があった。

 実際はどうなのか。イスラエルはビッグデータの軍事利用が進んでおり、ガザ攻撃には2種類のAI標的生成システムが実戦投入されている。建物を標的とする「ハブソラ(福音)」、そして人を標的とする「ラベンダー」だ。

 「ハブソラ」は攻撃目標を次々と生み出すことから「標的工場」とも呼ばれる。イスラエル軍のアビブ・コハビ前参謀総長は、諜報員などでは1年に50か所程度の標的を探すのがやっとだったが、AIシステムの活用で1日に100か所の攻撃目標を生成できるようになったと豪語する。

 「ラベンダー」は、ハマスやイスラム聖戦の戦闘員を割り出すために設計されたシステムだ。大量監視システム(通信傍受、行動監視、無人機映像、衛星情報などで収集)で得たガザ住民の情報をAIに解析させ、「危険度」を1〜100の数値で評価する。その数値が一定数以上の者は自動的に潜在的な殺害の標的になるというわけだ。

 「ラベンダー」の実態を暴いた独立系ネットメディア(ローカル・コールと+972マガジンの共同取材チーム)によると、ピーク時には3万7千人がハマス等の戦闘員としてリストアップされ、攻撃対象になっていたという(イスラエル軍関係者の証言)。

「巻き添え」を容認

 AIによるプロファイリングはあくまでも推測にすぎない。ハマスの戦闘員ではなくても、よく似た情報の特徴を持つ人なら「誤認定」されるおそれがある。実際、「ラベンダー」による標的生成の正確さは90%程度だとされる。

 しかも「ラベンダー」のオペレータたちは、攻撃目標が示されてから攻撃を承認するまで、わずか20秒ほどの時間しか与えられていない。事実上ノーチェックなのだ。これでは10回に1回は無関係の人が攻撃されることになる。

 そんな殺人システムの使用にイスラエル軍はゴーサインを出した。15人から20人の民間人が「巻き添え」になることを容認。ハマスの高官が標的の場合、100人以上が「巻き添え」になることも許可しているという。AI兵器の使用がジェノサイドに拍車をかけていることは明らかだ。

米IT大手の協力

 イスラエル軍のAIシステムは、米国の巨大IT企業(ビッグテック)に支えられている。たとえば、マイクロソフトはイスラエル国防省と3年間で1億3300億ドル相当(約196億円)の契約を結んでいる。同社にとってイスラエルは、米国に次ぐ世界第2位の軍事顧客だ。

 米国のデータ解析企業「パランティア・テクノロジーズ」は、イスラエルとの「戦略的パートナーシップ契約」を結び、戦争遂行を支援するAIシステムを提供している。共同創業者のピーター・ティールは「テック右派」と呼ばれるグループの中心的人物だ。トランプ政権との関係も深い。バンス副大統領は彼の部下だった。

 パランティアのアレックス・カープ最高経営責任者は、米国とその同盟国に自分たちビッグテックと緊密に協力し、「来る戦争を支配する無人機の群れやロボット」を含むAI兵器を開発・取得するよう呼びかけている。ガザやウクライナを実験場にして開発・強化したAI兵器を売りつけるつもりなのだ。

 彼は日本に対しても、軍事分野のAIを「日米が連携して開発を急ぐべきだ」と述べている(3/14日本経済新聞)。軍事面で中国に対抗するために必要だと言うのである。もはやAI兵器はSFの世界の存在ではないし、よその国の話でもないということだ。

防衛省・警察が注目

 防衛省は昨年7月に「AI活用推進基本方針」を策定。「目標の探知・識別」「情報の収集・分析」「無人アセット」(無人兵器の自律運用能力の向上や有人兵器との連携)などの7分野で「重点的にAIの活用を図る」としている。

 治安当局もAIの活用に積極的だ。警察庁は、SNSの投稿からテロにつながりそうな人物をAIで見つけ出す実証実験を来年度に始める方針を決めた。SNS上の書き込みから「テロの前兆」を把握し、未然に防ぐことが狙いだという。警察庁は来年度予算の概算要求に4950万円を盛り込んだ(9/10朝日)。

 これはもうイスラエル軍のラベンダーと同じ仕組みの「言論弾圧目標自動生成システム」ではないか。国内外のIT企業は「おいしい商売になる」と舌なめずりをしていることだろう。

 冒頭で紹介した国際会議で、パレスチナ代表は「AIシステムが戦争犯罪や大量虐殺を加速し、グローバルサウスの住民に向けて実験する可能性を強く懸念している」と訴えた。最新兵器の実験台にされてきた者ならではの警告だ。

 ガザでの虐殺、国際法違反の占領支配は兵器ビジネスと密接に結びついている。人殺しで儲ける戦争システムを止めるための民衆の包囲網形成が今まさに求められている。    (M)



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