2025年09月26日 1888号

【長生炭鉱遺骨収容を受け政府交渉/逃げる口実を事実が封じる/安全確保のために予算を使え】

 山口県宇部市・長生(ちょうせい)炭鉱の戦時中の水没事故により犠牲となった朝鮮人136人を含む183人の遺骨調査で8月25、26日、ついに事故現場の海中から遺骨が収容された。「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の長年にわたる活動により、80数年の時を経て実現した。

 9月9日、遺骨調査に非協力だった政府・各省庁に対し、改めて今後の本格的な遺骨収容に向けた予算措置を求める交渉がもたれた。会場の参院議員会館・講堂は満席となり、多くのメディアも取材に駆けつけた。

 要望に対し、「80数年経った遺骨の身元特定(DNA鑑定)は困難さが伴う」(警察庁)「80数年経っているので(調査の)安全性の確認が必要だが、今の知見では懸念が払拭(ふっしょく)できてない」(厚生労働省)と、消極的な姿勢は変わらない。市民団体がカンパによって安全な作業のための工事・機材費用を捻出し、ようやく遺骨の収容にたどり着いたというのに、なお市民任せの傍観的な立場。万が一事故などが起こっても民間の自己責任で政府は関与しない、という無責任さだ。

 これには出席した国会議員から批判の声が飛び交った。「調査から遺骨収容へと局面は大きく変わった。市民任せにせず、不安というなら、さらなる安全確保のために予算を使え」「事故犠牲者は180数人で特定されており、不特定多数を相手にした鑑定ではない。韓国政府も協力するのでDNA鑑定対象資料を外務省で早急に取り寄せて」

 警察庁に対し「シベリア抑留者のDNA鑑定など80数年前の鑑定も行われてるではないか」とただす。「対象資料の鑑定方法とわれわれの方法が異なると照合できないので、方法を知りたい」と見解を述べ、外務省との早期の折衝を要望する形となった。厚労省は予算の支出を渋ったままだが、「安全性への懸念」とする知見についてはその信憑(しんぴょう)性・科学性が追及された。「早急にダイバーや長生炭鉱の地質構造専門家の話を聞いて、安全性への懸念の払拭を」との意見は受け入れた。

 遺骨収容の事実が政府の逃げる口実を封じ、民間任せにはできない局面を作り出している。さらなる安全性を確保しながら来年2月には本格的な収容に入る。世界有数のダイバーが協力に名乗りを上げ、この問題は世界的にも注目される取り組みに発展している。

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