2025年10月03日 1889号

【長生炭鉱 80数年を経て遺骨収容/183名の完全収容へ/犠牲者らの怒り 恨(ハン)が責任を問う】

 山口県宇部市・長生(ちょうせい)炭鉱でついに事故現場の海中から犠牲者の遺骨が収容された。「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の活動により、80数年の時を経て実現した。本格的な収容に向け同会事務局長の上田慶司さんに寄稿してもらった。

 宇部市床波海岸の沖に見える長生炭鉱2本のピーヤ(排気筒・排水筒)。8月25日午前、韓国の水中探検家キム・ギョンスさん、キム・スウンさんがみんなの見守る中、調査に向かった。

 作業予定の3時間を過ぎたころ、プラスチック製かごを抱えて戻ってきた。かごには遺骨らしきものが。3本の収容物が机の上に並べられた。即座に、沖縄戦遺骨収集ボランティア具志堅隆松さんに写真を送ると大腿骨、上腕骨、前腕骨との返事。歓声が上がった。現場には4〜5本の靴を履いたままの大腿骨やご遺骨が4体横たわっているという。15度の水温、5気圧の中で保存されたご遺骨は損傷が少なく残っているようだ。

 ご遺骨収容のニュースは国内と韓国に即座に伝わった。翌日午前7時からの潜水に駆け付けた報道陣は韓国から数社、全国から100名近くに。2時過ぎ、頭蓋骨が収容された。会共同代表の井上洋子さんはご遺骨を抱き上げ「チョン・ソッコさんや直系ご遺族のお父さんだと思って抱かせていただいた」と述べた。

崩れる政府の「根拠」

 9月9日ご遺骨収容後初の政府交渉が参院議員会館で行われた。230名を超える参加者で会場は満員。先立って国会議員12名(社民・立憲・共産・れいわ)による厚生労働省審議官への要請行動も行われた。警察庁によるご遺骨のDNA鑑定はいまだ行われていないが、理由は検査の方法が韓国と日本で違う場合照合が難しいから調整が必要とのこと。外務省はこの調整を警察庁・韓国外交部と早期に調整していくと表明した。一方、厚労省は「事故当時海水が地層深く浸透し膨張し亀裂が入っているから危険」と繰り返した。しかし、「宇部の炭鉱の地層は豊潤で地下水で満ちており海水は入り込めない」とした専門家意見書(9月18日)を突き付けると「海水が地層に入って亀裂が入ったとは言っていない」と前言をひるがえすなど、根拠が崩れている。

 9月14〜16日、韓国を訪問した。直系のご遺族チョン・ソッコさんのお家を訪問した。ご遺骨の写真を見せると「ありがとう、洋子さん」と井上共同代表にお礼を述べた。一刻も早くご遺骨を返還する必要性を強く感じた訪問だった。

 行政安全部、外交部も訪問した。韓国政府は、遺族の遺伝子情報の提供にとどまらず、ご遺骨のDNA鑑定にも参加したいという。韓国政府の持つご遺族のDNA鑑定情報は76件、刻む会と合わせると83件になることも確認した。

 しかし、植民地支配の結果生じた遺骨の返還は停滞し、軍人軍属・韓国人遺族のDNA鑑定参加、祐天寺(東京)の朝鮮人遺骨返還、他のお寺にある遺骨の返還など、日本ではすべてが止まっている実態だ。そんな中、長生炭鉱の坑口が市民の募金で見つけられ開いたことは衝撃を与えた。ピーヤからの潜水も市民の募金で障害物の除去に成功した。

 私たちが来るのを待っていたかのような荘厳なレンガの門の映像、続くご遺骨収容の映像は、日韓市民に衝撃を与え、昔のことではなく今私たちの前にその姿を現している。命を懸けてこのご遺骨の救出に挑むダイバーたちを応援する市民の声は高まっている。「子や孫の世代には謝らせない」―戦後処理を否定する安倍政権の70年談話は長生炭鉱の遺骨収容プロジェクトの前に確実に崩れ始めている。

第4次クラファンの輪を

 来年2月、タイの洞窟から13人の命を救ったミッコ・パーシーさんはじめ6人の世界的ダイバーが日本の水中探検家・伊左治佳孝さんの呼びかけに応えて長生炭鉱遺骨収容プロジェクト2026に宇部にやってくる。まずは見つかった4体の坑内に残るご遺骨、全身遺骨を完全収容する。宇部市床波の浜辺にはご遺体が並ぶであろう。私たちは日韓のみならず全世界へその様子を発信していく。

 そして犠牲者の力を借りて183名のご遺骨の完全収容へさらに進んでいく。犠牲者たちの怒り、恨(ハン)は、日本政府の強制連行・強制労働の責任を追及することになるだろう。

 私たち市民団体・刻む会がすべきことは安全にこのプロジェクトを実施することである。一刻も早い救出をしなければならないが、安全対策に1_の隙もあってはならない。第4次クラウドファンディングは目標2100万円、ゆうちょ募金を合わせれば目標は3000万円となる。そのほとんどが安全対策に使われる。

 市民の協力が必要だ。第4次クラファンの輪を広げてほしい。(クラファンは9月13日から11月末まで)





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