2025年10月03日 1889号

【コラム 原発のない地球へ/いま時代を変える(28)/「AI・DC=電力需要爆増」論は崩壊した 電力業界誌も認めた「でたらめ」】

 『エネルギーフォーラム』という月刊誌がある。かつては『電力新報』という誌名だったが、電力以外のエネルギーも扱うようになり1980年に改称した。定期購読者も多い電力業界誌で、もちろん原発は全面推進。少なくとも私たちが読むような雑誌ではない。

 先日、この雑誌が「2050年電力大不足の虚実」と題した特集を組んでいるのが目についた。電力業界誌だけに「AI(人工知能)やDC(データセンター)で近い将来、電力が大不足するから、全世界で原発を1000基新設しろ」という極論でも展開しているのだろうと思い、読んでみたが、結論は意外なものだった。

 電力広域的運営推進機関(広域機関)が今年7月に公表した「将来の電力需給シナリオ」の内容は、すでに当コラムで取り上げているので繰り返さないが、策定に当たっては、広域機関から電力中央研究所(電力業界系シンクタンク)やコンサルタント会社に丸投げされたという。シンクタンクが出した予想では説得力がなく投資判断の根拠にならない――覆面座談会に出席した「需要家A氏」はこう述べる。

 また、「需要想定の伸び幅に関しては、現実味を欠いている印象」「これまで(電力需要が)長期的に縮小していくと見られてきたことを踏まえると、今回のような急増を前提としたシナリオはあまりに極端」「過去10年で半導体の電力効率は10〜20倍に向上している」(いずれも新電力関係者B氏)、「どういう根拠で算定しているのか分からない」(コンサル関係者C氏)と散々な評価だ。

 政府の「電力需要爆増」論を信じて次々と原発を建てたものの、シナリオ通りに電力需要が増えなかった場合、電力が大量に余り、自由化市場で電力価格が大暴落――業界が最も怖れているのはこのような展開だ。大量に建てた原発はじめ、過大な設備の維持費を電気料金として国民に押しつけるような無責任な対応は取るべきでないとC氏は主張する。

 『エネルギーフォーラム』誌が一般メディアと違うのは、業界誌であるが故に電力会社の経営に責任を持たなければならない立場であることだ。むしろ最近は、無責任な「AI・DC=電力需要爆増論」を振りまく一般メディア(特に日本経済新聞)のほうが悪質な印象操作になっている。

 朝日新聞もひどい。角田克社長が6月、東洋経済オンラインでのインタビューで「AIやデータセンターは原発がないと動かせないようなことも、みんなわかっている」と発言。小泉純一郎元首相らで作る「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」(原自連)から退陣を要求されている。

 電力業界誌ですら疑問を呈している自公政権の「電力需要爆増=原発推進」論を検証もせず垂れ流し、原自連からの公開質問状に対しても言い訳を繰り返す「朝日」。このまま角田社長が辞めないなら、私は9月限りで「朝日新聞デジタル」を解約するつもりだ。   (水樹平和)

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