2025年10月03日 1889号

【米若手右派論客が撃たれ死亡/「左派の仕業」にするトランプ/政権批判の弾圧に徹底利用】

 「過激な左派の狂人どもを徹底的に叩きのめす必要がある」。米国のトランプ大統領が自身に近い極右活動家の射殺事件を利用し、政治的対抗勢力への弾圧を開始した。日本でも参政党などが「左派こそ暴力的」という印象操作をくり広げている。その狙いは。

決めつけで攻撃

 米国の右派系若者団体「ターニング・ポイントUSA」のチャーリー・カーク代表(31)が9月10日、ユタ州の大学構内で銃撃され死亡した。カーク代表は18歳で同団体を設立し、学生メンバー25万人を擁する巨大組織に成長させた。昨年の大統領選ではトランプ陣営の集票マシンとなり、特に青年層の集票に貢献したとされる。

 身内というべき若手論客の銃撃死を受け、トランプは容疑者が特定される前から「過激な左派による政治的暴力があまりにも多くの命を奪ってきた」と決めつけ、「今すぐ止めなければならない」と訴えた。取り巻き連中も左派攻撃に加わった。たとえば、政府効率化省のトップを務めた実業家のイーロン・マスクは自身のXに「左派は殺人者の党だ」と投稿した。

 9月17日には、反ファシスト運動「アンティファ」のテロ組織指定が発表された。アンティファは組織やリーダーを持たない分散型の運動体だが、トランプは財政的な支援をした者についても「徹底的な捜査」を行うと言明した。

 言論弾圧の動きも強まっている。ロイター通信によると、9月14日時点で少なくとも15人が、SNSへの「不適切な投稿」を理由に、解雇あるいは停職処分を受けたという。バンス副大統領は「カークの殺害を喜んでいる人を見かけたら雇用主に通報だ」とネットユーザーに奨励した(9/16)。

極右のテロは無視

 米国の極右は銃規制に反対の立場だが、カークはその急先鋒だった。米国で毎年銃による死亡者が増えているのは、米国憲法修正第2条(武器を所持する権利)の「納得できる代価」だとして、その死には「価値がある」と述べたこともある(2023年4月)。

 この発言を念頭に「恐ろしい考えをやめず、恐ろしい言葉を吐き続ければ、恐ろしい行動に結びつかないはずがない」と出演番組で発言した政治アナリストはテレビ局に即日解雇された。トランプ派の主義・主張を問題視すること自体がNGというわけだ。

 実は、ミネソタ州で民主党の州議会議員が射殺される事件が6月に起きているのだが、トランプは「我々が抱える問題の原因は左派にある。右派ではない」と強弁している。バンスに至っては「今日の米国政治における異常者の大半は、極左を掲げる人びとであるというのは統計上の事実だ」とまで言い放った。

 事実は全く逆だ。米国立司法研究所が2024年にまとめた調査報告書は「1990年以降、極右過激派によるイデオロギーに基づく殺人は、極左や急進的イスラム過激派によるものよりもはるかに多い」と結論づけていた。

 ところが、米司法省はウェブサイトからこの報告書をしれっと削除した。何とも卑劣な情報隠しというほかない。トランプ陣営が「左派=過激暴力集団」のレッテル貼りによって、政権に批判的な言論の弾圧を正当化しようとしていることは明らかだ。人の死を政治利用しているのはトランプのほうなのだ。

参政党との関係

 殺害される4日前、カークは参政党の招きで来日し、神谷宗幣代表との対談イベントに出演していた。カークは日本の「移民」問題に言及し、「グローバリストが外国人を使って国を台無しにする。日本でも起きうることを止めなければ」と述べていたという。

 神谷はカークへの追悼コメントで「受け取ったものを大切にし、正確に伝え、力強く広めていく」ことを誓った。「同志」と呼ぶ人物の死を悼むこと自体は問題ではない。だが、参政党はトランプと同じで、今回の事件を政治利用している。参政党支持者が「左派・リベラル」を非難し責任を追及する意見をネットニュースのコメント欄などに大量投稿しているのだ。

 いわく「日本では参政党に対する演説妨害、アメリカでは銃撃事件、暴力や凶暴なことをするのは左側の人間です」「平和を語りながら暴力。左派は本当に卑怯」「日本の保守派の人たちも気を付けて欲しい」「参政党、頑張れ」等々。

 「極左の考えを持った人たち」の一掃は神谷の持論であり、それを洗い出し辞めさせるためにも「スパイ防止法」が必要だと公言している。次期国会への法案提出に向けた準備も進めているという。カークの死を利用した左派叩きもしかり。その狙いはスパイ防止法制定への「追い風」づくりにある。  (M)

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS