2025年10月03日 1889号
【読書室/アメリカの新右翼 トランプを生み出した思想家たち/井上弘貴著 新潮選書 1550円(税込1705円)/米国社会の反動的作り変え】
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9月10日、トランプを支えてきた極右活動家チャーリー・カークの銃撃殺害事件と事件を巡る政権のキャンペーンは、日本のメディアも報じ、米国の右派・極右勢力が改めて注目された。
だが、オバマ政権(2009〜2017年)以前からアメリカでは、社会の基礎になっている思想や歴史に異議申し立てする、とりわけ右からの動きが存在していた。現在、この反動的潮流が強く表に出ている。
トランプ政権が政治的成果を残す場合、またそうでない場合も「社会や政治の中長期的な変容・変質が促される」ことが考えられ、本書はこの可能性を論じる。
第一章で、2010年代に左右両極によってアメリカの社会が揺さぶられ、オルトライト(白人のアイデンティティが危機に瀕していると考える右翼勢力)が残した影響力について、歴史的に意味付ける。
第二章で、「1619プロジェクト」(1619年に奴隷がアメリカにつれてこられたことを根拠にこの年がアメリカの誕生とするもの)に焦点を当て、左派からの異議申し立てと右派との論争を見る。
第三・四章は、「新しい右派」(戦後3回目の右派興隆)の動向と右派テック企業を象徴するピーター・ティールの思考を分析する。
第五章で、極右のルノー・カミュが提唱する「大いなる置き換え」を検討する。これは、「非西洋世界からやってきた非白人が意図的に西洋社会の白人に取って代わろう」とする考えであり、陰謀論に近い。
こうした多種多様な右派・極右の主張は米国社会に根付き、トランプ勝利の要因の一つとなった。欧州、日本同様、その動向は決して無視できない。 (I) |
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