2025年10月24日 1892号 
            【高市自民新総裁「馬車馬のように働け」発言/背後に労働時間規制解体を狙う資本の衝動】
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             10月4日、自民党総裁選で高市早苗前経済安全保障担当相が新総裁に選出された。その勝利演説での宣言は衝撃的であった。「もう全員に働いていただきます。馬車馬のように働いていただきます。私自身も『ワークライフバランス』という言葉を捨てます。働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」 
            発言に怒る過労死家族
             自民党議員らに向けたものとはいえ、当然メディアを通じて全国に発信されることを想定している。一国の「政治指導者」をめざす者として、あるまじき、かつ反動的なものである。 
             
             「馬車馬のように働く」という表現が示すのは、目隠しをされて視野を狭められ、主体性を完全に奪われ、過酷な労働を休息なく強いられる状態である。これはただの比喩ではなく、労働者を手段化する前時代的な労働観の露骨な表れと言わざるを得ない。 
             
             さらに「ワークライフバランスを捨てる」という宣言は、労働契約法第3条が定める「仕事と生活の調和」という基本理念を、行政の頂点に立とうとする者が公然と否定する行為である。子育てや介護に直面する労働者、過労死の危険に常に晒されている労働者、長時間労働を強要され過労に斃(たお)れた者やその家族にとって、耐え難い暴言だ。「全国過労死を考える家族の会」代表世話人の寺西英子さんは「法律をないがしろにする発言。影響力を重く考えてほしい」と憤った。 
             
              
             
              
             
             これは単に党内への叱咤激励≠ナはない。高市は、総裁選公約に「労働時間規制につき、心身の健康維持と従業者の選択を前提に緩和します」と明記していた。発言はこの公約につながる。意図的に挑発的な言葉を選び、今後推進しようとする労働時間規制緩和の「観測気球」にしたと見るべきだ。 
             
             こうした動きは孤立≠オたものではない。現に高市発言を受けて、参政党の神谷宗幣代表は翌5日、広島市の街頭演説で「高市さんの言う通り、ワークライフバランスとかいってるからおかしくなるんですよ」「国が貧しくなっているのにワークライフバランスもへったくれもあったもんじゃないですよ」と即座に賛同を表明した。高市発言は、決して政治家個人の偶発的な発言ではなく、明確な政策的連携の現れといえる。 
            労政審の動きと連動
             背景に、経済界―資本の側からの強い要請がある。ひと月前の9月4日、厚生労働省の労働政策審議会で経団連の鈴木重也・労働法制本部長は「最近、経営者から日本の国力低下を憂える発言を聞く。国際競争力を高めるために国の政策を総動員する必要がある。裁量労働制の対象業務を拡大する検討を進めてほしい」と明確に要望していた。 
             
             この流れは、7月参院選での各党の公約にも明確に見て取れる。自民党は「働きたい改革の推進」を、公明党は「本人の希望に応じて働きたい時にもう少し働ける社会へ」を、参政党は「時間外労働の上限規制の見直し」を、公約に掲げていた。表現こそ異なるものの、労働時間規制の緩和、ひいては労働時間の実質的な延長を可能にする政策方向で一致している。 
             
             資本がいま適用拡大を強く狙う裁量労働制の眼目は、あらかじめ労使で決めた時間を働いたと「みなす」制度である点にある。これは実際の労働時間と関係なく賃金が固定されるため、「定額働かせ放題」を招き、長時間労働を助長する危険性が極めて高い。労働者からは時間と賃金の両方を搾取する、まさに「資本丸儲け」の制度である。 
             
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             高市新総裁の「ワークライフバランス放棄」宣言は、言葉だけの問題ではない。グローバル資本の要請を受け、野党の一部とも政策的に連携し、労働時間規制の緩和を推し進める策動の先駆けとしてある。 
             
             労働者の生命と健康を破壊することをまったく顧みないこのような危険な方向性を許してはならない。 
             
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