2025年10月24日 1892号 
            【アルバネーゼ報告に反発する米政権/企業責任を追及され逆上/ボイコットの広がりに焦り】
                   | 
                 
                
             前号に続き、国連人権理事会のフランチェスカ・アルバネーゼ特別報告者(パレスチナ担当)による報告書「占領経済からジェノサイド経済へ」を取り上げる。イスラエル政府や米国政府は猛反発しているが、このことは報告書の正しさと有効性を裏付けている。 
            正しさを逆に証明
             ルビオ米国務長官は7月9日、パレスチナの人権状況を調査している国連のアルバネーゼ特別報告者に制裁を科すと発表した。米国への渡航制限や米国内の資産凍結などの措置が取られることになる。 
             
             ルビオは声明で、アルバネーゼが「臆面もなく反ユダヤ主義を吐き出し、テロへの支持を表明し、米国やイスラエルを公然と侮辱してきた」と主張。グローバル資本が利益のためにイスラエルの蛮行を支えてきたことを指摘した彼女の報告書についても「政治的、経済的な敵対行為であり容認できない」と批判した。 
             
             イスラエルの在ジュネーブ国際機関代表部は「法的根拠がなく、名誉を棄損するもので、露骨な職権乱用だ」と語った。国連特別報告者のガザ地区などへの現地視察を拒否しておきながら、よく言えたものだ。 
             
             「国際連合の特権及び免除に関する条約」は第6条で、国連のための任務を遂行する専門家に対し、任務を独立して遂行するために必要な特権及び免除を与えている。トランプ政権による制裁措置が国連特別報告者の独立性を無視していることは言うまでもない。 
             
             もっとも、米国・イスラエル政府の逆上ぶりはアルバネーゼ報告の正しさを物語っている。世界の巨大企業がジェノサイド(大量殺害)やアパルトヘイト体制を支えてきた事実を暴かれ、その責任を追及されることは、連中にとって最悪のシナリオなのだろう。 
            広がる国際連帯
             アルバネーゼは制裁発動に臆することなく、「今すぐ行うべきことは全面的な武器禁輸とイスラエルとの貿易協定の停止だ」と主張する(8/14アラブニュース)。そして「新しい世代全体が人権の言葉を話すようになりました。私にとっては、このこと自体が成功なのです」とも語る(同)。 
             
             各国政府の不作為にもかかわらず、何百万人もの市民が街頭に立ち、破壊と殺戮を止めようとしている。このことに彼女は希望を見出しているのだ。 
             
             実際、世界の市民や労働者の闘いが大きな変化を生み出している。マイクロソフト社は9月25日、イスラエル軍がガザとヨルダン川西岸地区のパレスチナ人を大量に監視するために使用していた技術へのアクセスを打ち切った。内部調査で「証拠」が確認されたためだという。 
             
             実際には、2000人以上のマイクロソフト労働者がデモや座り込みを行い、イスラエル軍との関係断絶を求めたことや、ユーザーや一部の投資家がマイクロソフト製品のボイコット運動を始めたことに押されての企業判断である。 
             
             ノルウェーでは9月に行われた総選挙で、世界最大の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金によるイスラエル企業への投資が重要争点のひとつとなった。同基金はイスラエル関連株を売却し始めている。たとえば、アルバネーゼ報告が名指しで批判したキャタピラー社を投資対象から除外した。 
            日本政府はだんまり
             日本政府の反応はどうか。伊勢崎賢治参院議員(れいわ新選組)がアルバネーゼ報告を受けた質問主意書を出している。「イスラエルによる違法な占領政策及び軍事行動を直接的・間接的に支援している日本企業の実態を把握するための調査を実施しているか」といった内容だ。 
             
             政府の回答は「外務大臣が、個別の企業の活動についてのお答えは差し控えさせていただくと述べたとおり」というもの。事実上のゼロ回答だ。ちなみに自民党の高市早苗総裁は総務相時代の2017年、日本の「表現の自由」に関するデビット・ケイ国連特別報告者の提言を「個人的な見解にすぎない」と黙殺した。 
             
               *  *  * 
             
             ガザではようやく停戦が発効したが、パレスチナの民族浄化=乗っ取り策動をイスラエル政府が放棄したわけではない。UWFPP(パレスチナ人民防衛統一労働者戦線)は10月4日付の声明で「戦争の停止は闘いの終わりを意味するものではない」として、「占領の終結と植民地主義・アパルトヘイト体制の解体に至るまで、労働者・大衆によるボイコット運動の強化」を呼びかけている。 
             
             今こそアルバネーゼ報告を活用し、イスラエル政府とその協力者に悲鳴を上げさせるほどのボイコット運動(BDS運動)を実践するときだ。    (M) 
             
            *アルバネーゼ報告の抄訳は『地平』のウェブサイトで読むことができる。 
             
              |  
       
       |