2025年10月24日 1892号

【読書室/汚された水道水 「発がん性物質」PFASと米軍基地を追う/松島京太著 東京新聞 1600円(税込1760円)/汚染実態と怒りの可視化を】

 本書は、東京新聞の松島記者が東京都多摩地域の複数の井戸で見つかったPFAS(有機フッ素化合物の総称)の汚染源を求めて取材をした記録である。

 米国では1990年代から発がん性をはじめとするPFASの危険性が認識されたが、日本政府が水道水の管理目標値を設定したのは2020年のことだ。

 その頃、多摩地域の広範囲で井戸から高濃度のPFASが検出されていた。都が取水を停止した井戸は立川市や国分寺市など7市で計34本にのぼっていた。市民の関心も急速に高まり、研究者の協力を得て血液検査も始まった。国分寺市を中心に採血した87人の分析結果によると、85%が全米アカデミーズの指標を超え、「健康被害のリスクがある」という結果だった。

 汚染源としては泡消火剤を使っている米軍横田基地が疑われた。公表データを整理したところ、横田基地の西側の井戸では数値が低く、南東側の数値が高いことがわかった。地下水は西から東へ流れている。横田基地が汚染源である可能性は高まった。だが米軍基地への立ち入り調査は日米地位協定によって米側の同意がなければできない。

 2024年4月、米国のPFASの新たな規制基準(4ナノc/g)が決定された。横田基地内の井戸はこの基準を満たしていない。在日米軍は「基地内の井戸を放棄して基地内の飲料水すべてを地元自治体から購入する」旨を発言。それでは横田基地の汚染はそのまま放置されることになる。

 著者は最後に、PFAS問題解決には(1)環境汚染(2)血中汚染(3)健康リスク(4)米軍の内部情報(5)怒りの声―の5つの可視化が必要だと提言している。  (U)
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