2025年11月14日 1895号

【高市内閣 高支持をどうみるか/閉塞感ゆえの救世主願望/民主的空間の再生が急務】

 発足したばかりの高市早苗内閣の支持率が報道各社の最新世論調査で60〜80%台をマークした。石破内閣時に実施した前回調査と比較すると、倍以上伸びている。若年層の支持が大幅に上昇したことが、全体を押し上げた。この「高市人気」をどうみるか。

 読売新聞71%、朝日新聞68%、毎日新聞65%―。全国紙が10月下旬に実施した世論調査における高市内閣の支持率である。高市の“外交デビュー”後に行われたJNNの調査(11/1〜11/2実施)では「支持できる」が82%に達した。

 各調査に共通した傾向は、若い世代からの評価が高いことだ。「朝日」の調査では18〜29歳の75%、30代の86%が「支持する」と答えている。学生層の支持も85%と高い。年代別支持率が最も低かったのは70歳以上で、54%だった。

 石破内閣は若年層の支持率が低かった。8月調査をみると全体で36%。18〜29歳は16%、30代は18%だったから、高市内閣はまさに「爆上げ」といえる。自民党の支持率をみても、全体では4ポイント増にすぎないが、若い世代に限ると倍増している(18〜29歳は9%→32%、30代は9%→23%、40代は13%→16%)。

 若年層で顕著な「高市人気」の理由は何か。現時点での仮説を提示したい。

「現役重視」への期待

仮説A「政策面の支持」

 「朝日」調査には「高市首相の経済政策に期待できますか」という設問がある。全体では「期待できる」が65%で「期待できない」25%を上回った。特に若い世代での期待感が高い(18〜29歳の79%、30代の87%が「期待できる」)。

 自民党と日本維新の会の連立合意文書をみると、物価対策として最も効果的な消費税減税は見送る一方、「現役世代の社会保険料引き下げを目指す」とアピールしている。世代間の分断を煽る手法だが、これが過度な負担上昇にあえぐ若い世代の心情に響いているのではないだろうか。

 また、「高市首相の保守的な政治姿勢」を「評価する」との回答は全体57%に対し、18〜29歳は74%、30代は80%であった。彼ら新自由主義ネイティブが思い描く「保守」については、中西新太郎・横浜市立大学名誉教授の次のような指摘がある(『経済』8月号)。“せめて今の生活を壊さないようにしてほしい”という「感覚次元の抵抗という側面」があるというのだ。

強権に「いいね」?

仮説B「強いリーダーへの期待感」

 右派メディアが強調している点だ。都内の大学に通う18歳男性は「はっきり言う姿勢に好感が持てる。政治家といえば、責任逃れという印象もある中で真逆の良さを感じる」「思い切った政策をしてくれるのでは」と語る(10/27産経)。

 ネットニュースのコメント欄をみても「高市氏なら変えてくれるのではないか。中途半端な政策は全くいらない。強い日本にしてもらいたい」「やる気や覚悟が感じられ好印象」といった支持者の書き込みであふれかえっている。

 現代の若者たちの間で強権的な指導者を容認する傾向が強まっているとの指摘がある(たとえば、玉川透編著『強権に「いいね!」を押す若者たち』)。「現在の閉塞状況を打破するためなら、優秀なリーダーが独裁的な権限を行使するのも有」というわけだ。

 こうした考え方の広がりが極右政治家の世界的な台頭をもたらしている。それにならった高市の作戦は現時点で一定の効果をあげているとみていいだろう。

無難さ優先の支持

仮説C「同調圧力による萎縮効果」

 これが最も影響があると個人的には思っている。メディアやネットの高市礼賛言説を目の当たりにして、そうしたトレンドに乗っかることが世渡り上の最適解と判断する人が若い世代ほど多いのではないか。逆に言えば、批判的な意見を持っていても、叩かれることを恐れて口に出せなくなっているということだ。

 実際、高市批判を表明した人たちはネットでさらされ大炎上している。日本共産党の志位和夫議長もその一人。彼はトランプ米大統領訪日時の高市のふるまいを「米原子力空母で米兵を前に大軍拡を誓約し、飛び跳ねてはしゃぐ。ガザへのジェノサイドで血塗られたネタニヤフを軍事支援で支えてきた人物をノーベル平和賞に推薦する。正視に堪えない卑屈な媚態だ」と批判した(Xへの投稿)。

 まっとうな指摘だが、ネットでは「だから共産党は嫌われる」と叩かれた。社民党の福島瑞穂党首も高市内閣を「戦争準備内閣」と呼んだところ、ネットニュースで揶揄され、批判のコメントが殺到した。

 政治的な主張ではなくても「高市下げ」とみなされれば叩かれる。高市のモノマネ動画をSNSにアップしたお笑いタレントのキンタローは「国の為に寝る間を惜しんで働いている方をこんな風に茶化すってどう言うつもり? あまりにも不愉快」と炎上した。

 高市に批判的とみなされた意見が血祭りに上げられる様を、場の空気を読むことに神経をすり減らしている若者たちが目の当たりにしたらどうなるか。無難な選択として「高市支持」に同調することは自然の成り行きといえる。

若者だけではない

 本稿は「なぜ」という分析を目的としており、「どうすればいいか」の検討は別の機会に譲りたい。一つ言えるのは、「高市人気」なる現象の背景には、若者に顕著な社会的・政治的疎外があるということだ。

 毎日の生活に不満を感じていても、解決の展望が見出せない。特に、自分自身の社会的な働きかけによって変えていくことなど想像もできない。そうした新自由主義支配下の強い閉塞感が、民主主義の手続きによらない一挙的解決、すなわち強権的指導者による救済を求める心情を生んでいるのではないだろうか。

 極右ポピュリズムの浸透は若者に限ったことではない。これに対抗するためには民主主義の仕組みを再生することが必要だ。誰もが尊重され、意見を出し合い、社会変革の確信を深め、実績を積み上げていく。そうした民主的空間を身の回りから築いていくことが求められている。(M)



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