2025年11月21日 1896号

【ニューヨーク市長選 歴史的勝利/初の民主主義的社会主義者 マムダニ市長誕生/“政治は労働者のためにある”】

 世界で最も多くの億万長者が住む街で民主主義的社会主義者の市長が誕生する。ニューヨーク市長選に勝利したゾーラン・マムダニ(34)はDSA(アメリカ民主主義的社会主義者)のメンバーだ。グローバル資本主義が生み出した生活破壊、市民の不安・不満。その解決策は排外主義・右翼的政策ではなく、社会主義的政策である。人口850万人、4割を移民が占める街で、その実践が始まる。

過去最多票に近い支持得る

 ニューヨーク市長選挙(11月4日投開票)の結果、民主党候補ゾーラン・マムダニが103万超の得票で勝利した。過去最多票に近い。移民出身としては7人目、初のムスリム、初のミレニアル世代(1981年〜96年生まれ)の市長と言われるが、なによりも初の社会主義者の市長となる。

 有権者登録約510万人、投票率39・91%。前回(2021年)23・39%、約115万票の倍近い約203万人が投票した。共和党候補はわずか15万票弱。トランプ大統領がマムダニを倒すために、共和党候補ではなく無所属の元ニューヨーク州知事クオモへの投票を呼びかけたためでもある。

 クオモは6月の民主党予備選挙でマムダニに敗れたが、党内の反マムダニ勢力からの支持もあり無所属で立候補した。その上、クオモには富裕層からの高額寄付が相次いだ。特定の候補者に直接資金支援はできない建前の政治資金管理団体(フィックス・ザ・シティとディフェンドNYC)は期日前投票(10/25〜)が始まってからだけでも200万ドル(約3億円)を投じて、マムダニを攻撃する広告を出した。

 今年25年目を迎えた9・11事件に絡めムスリムへの憎悪をかき立て、イスラエル批判を反ユダヤ主義だと非難した。主要なネガティブキャンペーンは「クオモには欠点がある。だが、共産主義がニューヨークに来るのを阻止するためにクオモに投票を」とテレビやSNSに流した。セクハラで州知事を辞めたクオモだが共産主義者よりましだと訴えた。集めた資金はマムダニ陣営の7倍。4000万ドル(60億円)を超える。そのうち42%がマムダニ攻撃に費やされた(11/2DropSiteNews)。

労働者階級の信頼取り戻す

 社会主義者マムダニの公約は極めて常識的で、シンプルだ。「米国最大の都市を住みやすい都市に」。だが、ニューヨークの億万長者は身構えた。「社会主義」が許せないのだ。

 たとえば富裕層への増税策。年収100万ドル(約1・5億円)以上の高額所得者に2%の所得税増税を公約した。億万長者に適用される最高税率は連邦政府で37%、ニューヨーク州10・9%。だが、ニューヨーク市の最高税率3・876%は課税所得5万ドル(750万円)以上に適用される。つまり、億万長者と全国平均以下の所得水準が同じ税率なのだ。税率は州法で定められており、市に上乗せ権限はないが、明らかに均衡を欠く。

 資本家はこのわずか2%の上乗せ策を「共産主義者が街にやってくる」と阻止しようとした。資本家階級は2%が問題なのではない。労働者階級優先、市民生活優先の発想、政策が拡がっては困るのだ。具体的な政策に立ち入らず、「悪魔のような共産主義」と恐怖感をあおり立てる手に出た。

 マムダニの公約は市バスの無料化、低価格の公設マーケット開設。無料保育サービスの提供、最賃時給30ドルへの引き上げ、中小企業支援機関資金の5倍増額など、働く者が生活しやすい環境づくりだ。

 最も共感を呼んだ家賃凍結。10人に1人が億万長者というマンハッタン地区では1ベッドルームマンション(日本の1LDK相当)で平均月額5000ドル(75万円)を超える。最も安いスタテンアイランド地区でも平均1700ドル(25万円)。収入の半分が家賃に消える。

 市長がすべての家賃値上げを規制できるわけではないが、家賃安定化対象住宅の家賃値上げを承認する独立委員会は市長が任命する。価格安定のために10年間で20万戸の低所得者向け市営住宅建設案も出している。

 これらの政策を資本家は「根本的に危険だ」とニューヨーク脱出をほのめかし、労働者は「少しでも実現すれば、ニューヨークを出ていかなくてもよくなる」と期待する。労働者階級のための政策なのだ。


資本の妨害をはね返す力を

 大手メディアのネガティブキャンペーンに対抗し、具体的な政策を労働者・市民の間に浸透させていったのが、マムダニ本人の労働者との対話や10万人のボランティアによる戸別訪問活動だった。ボランティアの数は6月の民主党予備選挙の倍になった。

 マムダニは勝利演説で「トランプを倒す方法を示すことができるのは、彼を生んだこの街だ」と強調した。労働者が民主党に期待できず右派を頼ってしまった結果、独裁者を生んだ。マムダニの政策が労働者の信頼を取り戻せば、誰もトランプに見向きもしなくなるということだ。

 トランプの支持率は低下を続け39%、不支持率は57%(11/4エコノミスト)に達している。政府機関の閉鎖、関税政策などが経済を悪化させていると見られ、民主党支持が増えている。

 ニューヨーク市長選と同日に行われたバージニア州知事選、副知事選で民主党が勝利。左派ではないが、ともに初の女性知事・副知事で、副知事はムスリムだ。州下院選でも民主党が大きく議席を伸ばした。

 ニュージャージー州知事選でも民主党初の女性知事が誕生。民主党地盤ながら、24年大統領選では僅差に迫られていた。デトロイトでも初の女性市長を選出した。トランプが嫌う多様性が勢いを増している。

 カリフォルニア州では、民主党に有利な選挙区割り(連邦下院)が住民投票で採択された。これは、8月テキサス州で共和党有利な選挙区割りへの変更を帳消しにするものだ。

 経済政策で行き詰まるトランプは移民排斥や「急進左派」弾圧を強めているが、労働者の支持を取り戻すことはできないだろう。米国最大の都市で、移民が40%を超える都市で、億万長者が最も集まる都市で、労働者の生活を支える社会主義的政策が一つ一つ実現していけば、全国に与える影響は大きい。

   *  *  *

 資本家階級は全力でマムダニの政策実現を妨害するだろう。トランプは「補助金削減」と脅す。来年のニューヨーク州知事選にトランプの熱心な支持者ステファニク下院議員が立候補を表明。マムダニを支持する現ホークル州知事の追い落しを狙う。富裕層増税・最賃引き上げに必要な州法改定阻止のためでもある。富裕層からの献金を受ける民主党指導部はマムダニの政策が「過激」と批判的だ。

 これらの妨害を乗り越えるには100万票では足りない。10万人ボランティアがDSAに結集し、労働組合を組織し、地域ネットワークをつくることが必要だ。来年1月1日の新市長就任に向け移行チームは動き出している。

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