2025年11月21日 1896号

【読書室/水の戦争/橋本淳司著/文春新書/900円(税込990円)/生活を脅かすデジタル社会の水使用】

 世界の水の使用量が急増している。1930年代半ばに年間約1000立方`bだったものが、2000年には4000立方`bになった。2050年には2000年比で55%増加するという予測が出ている。

 水不足に悩む人が多くなることは必至だ。2050年に39億人、世界の40%以上が水ストレスに直面するという。すでに水をめぐる紛争があり、水が国家レベルの問題となっている。

 水使用量の増加要因にデジタル社会の進展がある。AI、半導体などのハイテク産業が大量の水を使うからだ。さらに、電気自動車や再生可能エネルギーに不可欠な銅の採掘に水が必要であるように、テクノロジー産業との関わりもある。

 データセンターの設置されているラック(サーバーやネットワーク機器を納める棚)1台で10〜20`hの電気を消費する。その発熱を抑制するために冷却が必要となる。グーグルは米国内のデータセンターで年間約1270万立方b(2021年)の水を使うが、それは16万人の年間使用量に相当する。

 生成AIでも水が使われる。AIを使う23億人(月間訪問者総数)が1日に50のやりとりをするだけで、ひと月で東京ドームと同じ量の水が必要となる。SNS、検索エンジン、クラウドも水なしでは使えない。

 各地にデータセンターが作られ、次々に建設計画が出ている。30棟もあるという千葉県印西(いんざい)市では生態系への影響が問題となり、東京都昭島市でも地下水などに懸念が出されている。水の問題では自然環境と資本の論理がぶつかることになる。「水の戦争」が生活の場にも起こることを知っておく必要がある。(T)
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