2025年12月19日 1900号

【25年度補正予算に見る高市カラー/軍事費「対GDP比2%超」―戦争国家へ暴走/“コメの値段よりミサイルだ”】

 12月は、高市早苗政権の政策が具体的に示される月だ。まずは2025年度補正予算案18・3兆円。月末には、「税制改正大綱」と26年度政府予算案が閣議決定される。石破政権下の概算要求をどう修正するのか。高市政権はどこに財源を求め、なにを優先して予算配分するのか。困窮する市民生活放置、軍事優先の高市政権の基本姿勢を暴いていかなければならない。

市民しわ寄せ国債12兆円

 25年度補正予算案18・3兆円が衆院に提出されたのは12月8日。臨時国会の会期末17日まで審議期間は実質1週間をきる。問題満載の予算案がほぼ議論のないまま採決されることになる。

 補正予算は本来、当初予算成立後の情勢変化に対応する必要があって緊急に組まれるものだ。10月末に発足した高市政権。「『強い経済』を実現する総合経済対策」(11/21)をまとめ、裏付けとなる補正予算を組んだ(11/28)ということなのだが、緊急対応すべき物価高にどう手をうつのか。

 高市はまず補正予算の規模にこだわった。自らのスローガン「責任ある積極財政」を打ち出すためだ。財務省は24年度と同規模、14兆円の補正予算をまとめたが、高市は承認しなかった。当初案に4兆円上積みした。財源の裏付けなどない。約64%、11・7兆円を国債発行(借金)によった。高市はすでに「単年度ではプライマリーバランス(基礎的財政収支)を考えない」(11/7衆院予算委員会)と、「財政健全化」の考えも捨てた。

 これは何をもたらすのか。財政悪化リスクから円売り(円安)を招き、石油など輸入品の価格上昇、インフレがさらに進行する。物価対策にはならないのだ。

 国債安は利払いを増大させ、ますます借り換え国債の発行を増やすことになる。国債発行に頼る「積極財政」に「責任ある」と修飾語をつけても、全く無責任な市民しわ寄せ予算でしかない。




物価対策効果なし

 この予算の実態を見よう。打ち出した経済対策は「3つの柱」に仕訳(しわけ)されている。(1)生活の安全保障・物価高への対策(2)危機管理投資・成長投資による強い経済の実現(3)防衛力と外交力の強化。

 (1)物価高対策は8・9兆円。重点支援地方交付金2・0兆円などが並ぶ。いわゆる「お米券」やLPガス・水道料金の値下げ・減免財源として自治体に渡すものだ。この効果は「お米券」(米に限らず食料品の高騰支援)で一人3000円、ガス・水道では1世帯1万円の支援にあたる額だという。一回限りの雀の涙ともいえない程度だ。しかも、「お米券」が使える商店がない、券の準備や配布に経費がかかるなど、その実効性は疑われている。政府は使い方を自治体に任せ、自治体予算を上乗せして、実施してほしいと願うだけだ。

 政府は根本的な物価高対策を持っていない。高騰を続ける米価についても鈴木憲和農水相は「市場が決める」と現状を追認し、「政府の介入は好ましくない」との姿勢を示している。一時金の支給でごまかすしか思いつかないということだ。

 ガソリン・軽油価格の場合はどうか。暫定税率(上乗せ分)を廃止(ガソリンは12月31日、軽油は来年4月1日)し、1リットル当たりガソリン25・1円、軽油17・1円を減税する。政府は、コロナ禍で始めた石油業界に対する補助金を段階的に増額する。減税分に相当する額にまで引き上げ、廃止を待たずに価格を徐々に引き下げるためだ。

 石油業界には価格引き下げのための補助金を支出してきた。石油が産業の「コメ」であるとするなら、市民の主食の価格安定と安定供給に向けた政策こそまずあるべきだが、それはない。

2%超へ何でもあり

 (3)軍事費も大問題だ。高市の「25年度中に対GDP比2%達成」指示は防衛省だけでなく関係省庁の「軍事化」を促進した。

 GDP(軍事3文書を作成した22年当時)560兆円、2%に見合う11兆円を超える軍事費とするため、関連経費も加えた。25年当初予算は9・9兆円。補正では1・1兆円以上を積む必要がある。防衛省の積み上げは8472億円だ。残る3000億円を各省庁が「防衛関連経費」として挙げた。

 国土交通省は自衛隊が使用する特定利用空港・港湾の補強など1400億円。経産省は軍需産業の支援策に500億、総務省は自治体のシェルター整備支援(1・6億円)を挙げた。文科省が「他の柱」に計上した研究費は軍事関連600億円と集計されている。

 防衛省自身はどうか。主なものは「米軍再編の着実な実施」3451億円(馬毛島の工事に2751億円、辺野古に534億円)が積まれた。既に両工事は当初予算さえ執行できない状態にある。

 12式誘導ミサイルを搭載するステルス戦艦(新型FFM)やたいげい型潜水艦などの建造費1222億円は、すでに発注済みの後年度負担分の前倒し支払いだという(11/28NEWSjp)。

 数字合わせの「2%達成」ではあるが、これが次の軍拡へとつながるだけに見過ごすわけにはいかない。軍事費優先の号令は、各省庁に「防衛関連」なら予算取りが容易であることを知らしめ、戦争準備への抵抗感を失わせているのだ。

「集団防衛」軍拡に拍車

 トランプ大統領が「国家安全保障戦略(NSS)」を公表した(12/5)。対中軍事圧力は維持するものの、「集団防衛への貢献を大幅に増やすべき国家」として日本を挙げた。軍事費拡大を迫っているが、近く公表される「国家防衛戦略(NDS)」でさらに踏み込んだ要求をするだろう。

 高市政権も軍事3文書の改定作業に入っており、米国の注文にも呼応しながら軍拡路線を一層強化するつもりだ。

 さらに問題なのは軍事費の財源だ。高市は自民党の安全保障調査会長の小野寺五典衆院議員を党の税制調査会長にも抜擢した。「首相の一本釣り」と見られている(12/5毎日)。3文書改定と増税策の責任者に防衛相経験者の小野寺を就けたのは、明らかに軍事増税シフトだ。

 軍事費目的の法人税・たばこ税への上乗せ税は26年4月から実施される。先延ばししてきた所得税増税についても、政府・与党は27年1月実施に向け動き出した。これらの増税では1兆円程度の財源しか生まない。軍事増税と軍事国債が戦争国家の行き着く先だ。

   *  *  *

 高市の「存立危機事態」発言により、中国敵視の雰囲気が作り出されている。これが軍拡路線を後押しすることは間違いない。

 だが政権は、本来であれば物価高騰への対応、市民生活を守ることが最優先で取り組まねばならないはずだ。高市にとっては「そんなことより、中国への備えが先だ」なのだ。政治とカネ問題で批判を受けた自民党政治はまったく変わっていない。おまけに連立を組む日本維新の会の「カネの汚さ」は自民党と同類だ。市民の生活苦に向き合わず、「危機」あおりに徹する政治が長続きするはずはない。一刻も早く退陣させよう。

 
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