2025年12月19日 1900号

【「解雇の金銭解決」制度/不当解雇の免罪符¢_う/首切り自由社会めざす高市政権】

 労働者の解雇が裁判などで不当として無効となった場合、企業側が金銭を支払うことで労働契約を終了する「解雇の金銭解決」を巡り、厚生労働省は11月18日、専門家による検討会を新たに立ち上げることを決めた。2022年に同制度の創設が検討されたが、労働側の反対によって先送りとなっていた。ところが、高市政権発足とともに推進の動きが一気に加速されたのだ。

反労働者的姿勢で執着

 高市首相は、自民党政調会長であった時代(直近では21〜22年)から「解雇の金銭解決」制度の導入を強力に推進する立場であった。高市の反労働者的な姿勢の下、「執着」とも言える案件でありその危険性に警鐘を鳴らさなければならない。

 23年11月「NHK政治マガジン」が報じた高市自身による「直筆メモ」には、この制度への並々ならぬ思いが込められていた。そこでは、「裁判の長期化是正」「事業再編の促進」「早期の金銭解決と再就職支援」という3つの「メリット」を掲げ、あたかもすべての関係者にとって福音であるかのように描き出していた。しかし、このシナリオは、労働現場の厳しい現実を完全に無視している。

 高市が強調した「迅速な解決」は、言葉では労働者に有利なように聞こえる。しかし、それは「迅速さ」の名の下に、労働者が持つ「正当に争う権利」を奪い去るものだ。解雇され収入の途絶えた労働者が、強大な企業と「対等」に交渉できるはずがない。高市の言うような理想的な交渉など現実には存在しない。実際にあるのは、生活の不安に駆られた労働者が、企業の提示した不当に低い金額を「飲まざるを得ない」という構造的な強制でしかない。「効率的な解決」とは、現実には「泣き寝入りの制度化」に他ならない。

資本の意図を体現

 さらに見過ごせないのは、この制度が「事業再編の促進」を掲げる点である。

 高市は「成長戦略」の核心として金銭解決制度に執着する。その本質は、企業が経営上都合の悪い労働者を「金銭で切り捨てる」行為を容易にすることだ。特に、労働組合活動の嫌悪やパワハラの告発、妊娠・出産といった明らかに違法な理由に基づく解雇が、「事業再編」という曖昧な名目で金銭で処理され闇に葬られる危険性が極めて高い。

 高市メモは、労働基本権を侵害する重大な違法行為=不当解雇を「金銭解決」という手法で水に流すことを可能にする。それは「紛争解決」とはほど遠い違法行為の実質「合法化」、いわば違法解雇の免罪符≠ニしてある。「解雇金銭解決」は、経団連などが狙ってきた「首切り自由」を手に入れるための悲願≠セ。高市は、その意に全面的に応えようとしている。

 高市はまた「雇用の流動化」を声高に叫ぶ。その実行手段として進められる「解雇金銭解決」は、労働者の生活と権利を切り捨てることと一体のものなのだ。

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 高市政権が強力に推進しようとする「解雇の金銭解決」制度を許してはならない。労働者が人間として尊厳を持って扱われ、その権利がしっかりと保護される社会を守り抜かねばならない。この危険な制度の法制化が狙われる今、声を大にして抗議の意思を示そう。

  
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