2025年12月19日 1900号
【読書室/原発避難計画の虚構 公文書が暴く冷酷な国家の真意/日野行介著 朝日新聞出版 2200円(税込2420円)/再稼働ありきのインチキを暴く】
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原子力規制庁は原発30キロ圏内の自治体に原発事故発生時の住民避難計画策定を求め再稼働の条件としている。本書は、政府と自治体の秘密会議によって策定されている避難計画がどれほど欺瞞(ぎまん)に満ちているか、を情報公開請求を駆使して暴いた記録である。
住民避難に不可欠なものに避難用バス車両の確保がある。しかし、福島事故のような重大事故において一般人の年間許容線量1ミリシーベルト基準を守れば運転手の確保は不可能だ。原子力規制委員会は「防災業務関係者の許容線量は、放射線業務従事者の許容線量(年間50ミリシーベルト)を参考に決まる」とし、バス会社にはかることもなく避難計画に盛り込むよう自治体に要求した。「避難計画」の非現実性を覆い隠すために無理に押し込もうとしている実態が情報公開から浮かび上がってきた。
事故による放射性ヨウ素が甲状腺に沈着することを防ぐために有効なのが安定ヨウ素剤の被曝時服用だ。国は屋内退避となる30キロ圏内の住民に対するヨウ素剤配布を域外避難移動時とし、その配布場所は伏せておくように自治体に指示していた。その狙いはいわゆる「自主避難」を抑制するためだ。さらに住民避難時に30キロ地点に設置する放射線量検査場を通過しなければ域外に出ることはできない。これも「自主避難」を抑制するものだ。
しかも、国は空間線量の高い30キロ地点で渋滞を起こさずに正確な線量を検査することに無理があることを知りながら自治体に避難計画を作らせていた。
著者は、策定されている住民避難計画は「デタラメ」ではなく「インチキ」であると断じている。 (N) |
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