2026年01月23日 1904号

【トランプ米政権のベネズエラ侵略/「西半球」支配を狙う新戦略/むきだしの帝国主義を正当化】

 他国の首都に軍隊を送り込み、国家元首を拉致・連行する―。米国がベネズエラに仕掛けた軍事作戦は前代未聞の暴挙だった。だが、ドナルド・トランプ米大統領は「私には国際法は必要ない」とうそぶいている。「むきだし帝国主義」というべきトランプ流の外交戦略を読み解く。

国際法を完全無視

 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は1月6日、米国がベネズエラで行った軍事作戦について「いかなる国家の領土保全や政治的独立に対しても威嚇や武力行使をしてはならない、という国際法の基本原則を損なったことは明らかだ」との見解を示した。

 OHCHRのラヴィナ・シャムダサニ報道官は「国際法に違反する一方的な軍事介入」は「国際安全保障の構造を歪め、あらゆる国の安全を損なう」と指摘。「ベネズエラの人権状況を一層悪化させるおそれがある」との懸念を示した。そして、「強国は何でもできるというシグナルを送っている」と米国の行為を非難し、国際社会は結束して声を上げなければならないと強調した。

 国際法の権威はどのように見ているのか。米ノートルダム大法科大学院のメアリー・エレン・オコネル教授は、米国の攻撃は国連憲章の武力行使禁止原則(第2条4項)に反し、ニコラス・マドゥロ大統領とその妻の拘束は国際人権規約B規約に違反すると語った。ベネズエラの石油資源を米国が支配し「カネを稼ぐ」というトランプの発言については「違法な帝国主義としか言いようがない」と断じた(1/4毎日)。

 いずれもまっとうな指摘である。だが、当のトランプにとっては「ウマの耳に念仏」であろう。なぜなら「私には国際法は必要ない」「私を止められるのは私自身の道徳だけだ。私の心だ」(1/8米紙ニューヨーク・タイムズ)と豪語しているからだ。

「力こそ正義」の論理

 トランプの取り巻き連中も同様の見解を示している。ピート・ヘグセス国防長官は今回の軍事作戦を「これこそがアメリカの人びとにとっての安全と自由、そして繁栄だ。アメリカ第一主義であり、力による平和だ」と形容した(1/3)。

 第二次トランプ政権のイデオロギー的支柱と言われるスティーブン・ミラー大統領次席補佐官はCNNの番組(1/5)でこう言い放った。「私たちは国際的な礼儀作法などをいくらでも語れる世界に生きている。だが現実の世界は、力、武力、権力に支配されている。それが有史以来の世界の鉄則というものだ」

 これは帝国主義列強が植民地や勢力圏拡大を競い合い、国益を確保するための軍事力の行使を当然とした時代の発想だ。現代の国際法は、そうした歴史の反省から生まれた戦争違法化の思想を取り込んで発展してきた。だからトランプは「私には必要ない」と拒んでいるのである。

「モンロー主義」の復権

 「むきだしの帝国主義」というべきトランプ一派の世界観を外交・安全保障政策に落とし込んだ文書がある。トランプ政権が昨年12月に公表した「国家安全保障戦略」(NSS)だ。NSSは「米国が世界秩序全体を支えてきた時代は終わった」と主張。南北アメリカ大陸がある「西半球」の権益確保を「極めて重要な中核的国益」の筆頭に掲げ、「モンロー主義に対するトランプの系論(必然的に導き出される結論)」の実施を通じて米国の優位性を回復すると宣言した。

 モンロー主義は西半球における米国の優位を確立しようとした外交原則のこと。第5代米国大統領のジェームズ・モンローが提唱した。第26代大統領のセオドア・ルーズベルトはモンロー主義を拡大解釈し、「米国の裏庭」とみなす中南米の権益を守るためには軍事介入も辞さない姿勢を示した。強力な軍事力を背景に、自国の要求を強引に飲ませる「棍棒(こんぼう)外交」である。トランプはこれを自分流にアップデートし、現代に甦らせようとしているのだ。

 具体的には、「域外競争者」(中南米で影響力を深める中国やロシアなどのこと)を排除し、「我々の半球を守るよう努めねばならない」とした。また、「標的型課税、不公正な規制、収用など米国企業を不利にする措置に抵抗」し、「是正しなければならない」と露骨に述べている。

 ベネズエラに対する今回の軍事作戦の狙いはまさにここにあった。石油国有化政策をとるマドゥロ大統領を「米国の国益を盗む者」として排除し、米国企業の権益確保に奉仕する従米政権を樹立しようとしているのである。米軍の攻撃により多くのベネズエラ人が死傷したことなど、トランプは「どうでもいい」と思っているのだろう。

容認する高市首相

 「力による現状変更の試み」を認めず、国際法の誠実な順守を通じた「法の支配」を目指すことが外交政策の柱であると日本政府はくり返し主張してきた。高市早苗首相も昨年10月の所信表明演説で「ロシアによるウクライナ侵略について、力による一方的な現状変更の試みを許してはなりません」と述べていた。

 その高市がトランプ政権のベネズエラ攻撃については評価を避けている。事実上の容認だ。「法の支配」うんぬんは中国をけん制するための空虚な決まり文句でしかなかったということだ。日本政府内には「日本は今回の攻撃を支持するべきだ」と話す関係者もいるという(1/5ロイター)。高市応援団の竹田恒泰(政治評論家)は自身のXに「アメリカには、同じことを北朝鮮にやって欲しいです」と投稿した。

 トランプの帝国主義路線やそれに追随する高市の大軍拡政策を許していたら、世界中が戦火に包まれる。市民の国際連帯で食い止めねばならない。  (M)



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