2026年02月06日 1906号

【住宅追い出し裁判 最高裁判決/三浦判事反対意見の画期的意義/避難の権利に確信与える】

 原発事故避難者の住宅裁判に関して初めてとなる最高裁(第二小法廷・三浦守裁判長)判決が1月9日言い渡された。福島県から避難し、仮設住宅として東京の国家公務員宿舎(所有者は国)に住む2人の区域外避難者に対し、県は2017年3月で住宅無償提供は終了したとして2020年3月、退去と家賃相当分の支払いを求めて福島地裁に提訴。1審、2審判決は、県の判断は行政の裁量権の範囲内として避難者を敗訴に。最高裁判決も3対1の多数でこれを追認し、人権の最後の砦≠ナあるべきその役割を放棄したのだ。

 この裁判では、家主でもない福島県に居住者を訴える資格があるのか、避難者の事情を無視した福島県知事の住宅打ち切りの違法性、その後の県による追い出しの人権侵害、災害救助法等の欠陥、国際人権法との関わりなど重要な争点が突き付けられた。ところが最高裁は、新たな上告理由は認められないとして、判決では県の原告適格(提訴の資格)に触れるだけで、避難者側が提起した問題のすべてから逃げた。

 福島県の原告適格問題で、仮に資格がないとなれば、事案は原審に差し戻され、行政が逆転敗訴となる。県は昨年4月、避難者を追い出す強制執行まで実施し、原告適格には触れざるを得なかった。裁判官3人の多数意見による判決は、県が国に代わって債権者代位権を行使したことを容認。宿舎の使用許可期間は限定的だからいつかは明け渡しを求める時期が到来するだろう、とのた曖昧な理由で居住権・人権問題にふたをしてしまった。

 この多数意見に三浦守裁判長は反対意見を述べた。「(県の)債権者代位権の行使は、債権者代位制度の目的を逸脱。建物明渡請求訴訟の原告適格を有しないから、原判決中建物明渡請求に関する部分を破棄し、第一審判決を取り消し、被上告人の訴えを却下するのが相当」(13n)と断じた。

国際人権法を盛り込む

 注目されるのは、三浦反対意見が、判決文の約3分の2、16nにわたって、原発事故被災者の救済のあり方に踏み込んで行政を断罪したことだ。

(1)社会権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)11条1項と国内避難民に関する指導原則を具体的に示し、「本件事故の被災者の保護に関する関係法令の解釈適用については(これらの)趣旨を踏まえて行うことが相当」(14n)と明記した。

 社会権規約は、締約国は食糧・衣類・住居など生活水準、生活条件の不断の改善についてのすべての者の権利を認める、とうたう。

 指導原則では▽国内当局は国内避難民に保護、人道的援助を提供する一義的な義務及び責任を有すること▽移動の自由、居住地の選択の自由についての権利、自らの生命、安全、自由もしくは健康が危険にさらされる可能性のある場所への強制的な帰還または再定住から保護される権利▽状況に関係なく差別することなく、国内避難民に対し食料、飲用水、基本的な避難所、住居、衣服、医療サービス及び衛生施設など最低限の確保―など。上位法に当たる国際人権法を引用して原発被災者救済の基本視点を判決文に盛り込んだのは画期的なことである。

 2022年に訪日調査した国連人権理事会ヒメネス=ダマリー元特別報告者は、追い出し裁判で福島県の誤りを指摘。「国際人権法に則った…調査結果を事実上却下したことに私は失望している」と勧告を遵守しない1・2審判決を批判した(2025年6月)。

 三浦反対意見は「被災者にとって、生活の基盤を失って避難するという経済的にも精神的にも困難な状況の下で、その居住の安定に係る利益は生存の基礎であって個人の尊厳及び幸福追求に関わる」(17n)と避難者の居住権を位置付けた。国際世論に応え避難者問題を人権問題として中心に据えたのである。

(2)原発事故のような激甚な非常災害にあたっては、応急仮設住宅の供与期間の延長措置について「当該被災者の具体的な事情を適切に考慮して判断しなければならないもの」(17n)と一律の支援終了を批判。除染の実施、災害公営住宅の整備、インフラの復旧などによる打ち切り決定に対し、「社会通念上著しく妥当性を欠くものと認められ、各裁量権の範囲を逸脱しまたはこれを濫用(らんよう)したもの」(24n)と断罪した。

避難継続の正当性

(3)避難者の保護にあたって、区域内避難者と区域外避難者の不必要な区分を排する見解を明記した。「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」第3条の障害を及ぼすおそれのない線量以下とする、に基づづき、放射線審議会が1990年ICRP(国際放射線防護委員会)勧告を踏まえ、公衆の被ばくに関する限度は年1_シーベルトを技術的基準と定めてきたものであり、避難指示区域の設定解除の基準とされる年20_シーベルトは緊急事態応急対策の措置で法令に基づく技術基準ではない、と指摘。住宅打ち切りの2017年3月末時点では、福島県内36市町村が環境大臣が認める汚染地域であり、そのような「居住地から避難している被災者にとって、その避難の継続は法令に基づく合理的根拠がある」(21n)と避難継続の正当性を展開した。

 国連勧告で指摘される、区域内避難者も区域外避難者も同様の被害者として取り扱う重要性に一致する意見であった。そして区域外避難者に対し応急仮設住宅の供与期間を延長しないことは「居住の安定に係る利益等を損なうという点で、本質的な瑕疵(かし)を有するもの」(24n)と批判した。

(4)住宅追い出しを容認した原審に「(避難者に関する)具体的な事情を総合的に考慮して、建物明渡請求権の行使が権利の濫用に当たるか否かに必要な検討をしていない」(25n)と言及。「被災及び避難の状況、避難の継続または帰還についての意向、家族関係・健康状態・就労状況その他生活の状況、安定した住宅の確保に関する事情等の具体的事情を総合的に考慮」(24n)とし、「居住していることが国との関係において単なる不法占拠とみることはできない」と評価。権利の濫用に当たるかどうかの基準を示した。

 現在東京地裁で争われている「住まいの権利裁判」で、県側は「内堀知事は打ち切り判断の際、避難者の事情は考慮していない」と言い切った。そこで裁判長は内堀知事の証人申請は取り上げず、具体的な事情を聞く11人の避難者全員の証人尋問を認めた。三浦反対意見は、後続の住宅追い出し裁判にも大きく影響する。

災害救助法の限界指摘

(5)最後に、今後の政策的課題を提起した。「著しく異常かつ激甚な非常災害により、多数の被災者の避難が広域かつ長期に及ぶ場合において、被災者の支援が、個別の事情を踏まえ、その必要性が継続する間確実に実施されるよう、その居住の安定に資するための措置について適切な仕組みの構築が望まれる」(26n)と提言した。原発事故災害の「法の欠缺(けんけつ あるべき要件を欠くこと)」状態を暗に認め、災害救助法の枠で裁くことの限界を訴えた。

 反対意見は、住宅裁判をきっかけにして、避難者の諸権利を浮き彫りにした。

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 原発事故の国の責任を免罪した6・17最高裁判決では、三浦反対意見は国の責任を論証。1・9最高裁判決で、同意見は避難者切り捨てを断罪した。この反対意見が判決文から消されることはない。原発賠償訴訟や最高裁共同行動の役割はいっそう大きくなっている。貴重な三浦意見を広め、地裁・高裁にその内容を採用させるかどうか。運動の力と世論にかかっている。



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