2026年02月13日 1907号
【「殺さない権利」を求めて(17)――非暴力・無防備・非武装の平和学 前田 朗(朝鮮大学校講師)】
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殺さない権利を理解するために「人として認められる権利」と「差別されない権利」の重要性を見てきました。いずれも国際人権法の基本ですが、日本では十分に理解されていません。前に述べたように、基本的人権とは何かがほとんど理解されていないからです。その具体例を続けましょう。
「将来の世代の人権」を耳にしたことはあるでしょうか。今ではこの言葉は誰でも容易に理解できるかもしれません。SDGs『我々の世界を変革する――持続可能な開発のための2030アジェンダ』(2015年国連総会)には「地球が現在及び将来の世代の需要を支えることができる」という言葉があります。
人権条約にこの言葉はありません。しかし、国際人権法では広く共有されつつあります。2023年にマーストリヒト(オランダ)で『将来の世代の人権に関するマーストリヒト原則』(マーストリヒト原則)が採択されました。国連人権理事会の人権問題特別報告者たち、人権条約委員会の委員たち、国際人権法学者たちの共同作業の成果です。
マーストリヒト原則は、将来の世代の人権は人間の責務の本質的局面を形成し、尊厳、平等、不可分であるとし、将来の世代の人権を承認し確保することは、現在から遠い将来までの意思決定や正義にかかわると言います。世代を超える正義には個人的局面と集団的局面があるとして、詳細に論じています。
日本の憲法教科書や人権論のテキストには将来の世代の人権は登場しません。最高裁判所の判決にこの言葉が登場したことも聞いたことがありません。
実は日本国憲法に重要な規定があります。
日本国憲法第11条「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」。
憲法第97条「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」。
憲法に明記されているのに、ほとんどの教科書には出てこないのです。筆者は、脱原発運動の場で憲法第11条と第97条を引用し、将来の世代の人権を論じてきました。脱原発運動の市民は誰もが「当然だ」と応答します。沈黙するのは憲法学者です。憲法に書いてあるのに無視してきました。
2022年の日弁連オンラインシンポジウム「将来世代の権利・利益を現在の制度にどのように取り込むことができるか――気候危機、高レベル放射性廃棄物処分問題から考える新たな制度、権利はどうあるべきか」は優れた問題意識を表明しました。基調報告をしたのは法哲学者の吉良貴之です。吉良の主張にマーストリヒト原則を加えることで議論をさらに進展・充実させることができます。
<参考文献>
吉良貴之「世代論、運命論、責任論――特定の世代を対象とした公共政策を語るために」『現代思想』第50巻16号(2022年)
前田朗「将来の世代の人権とは何か――マーストリヒト原則の紹介」『明日を拓く』141号(2025年) |
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