2026年02月13日 1907号

【安倍銃撃事件裁判 「自己責任論」判決/政治と統一教会の関係を不問/高市も隠した癒着の構造】

 安倍元首相銃撃事件の裁判員裁判で、奈良地裁は山上徹也被告に無期懲役の判決を言い渡した。統一教会に翻弄され続けた被告の生い立ちは考慮せず、教団と政府・自民党の関係についても言及しなかった。高市首相はさぞかし安堵しただろうが、総選挙の結果がどうであれ、この問題の幕引きは許されない。

自民党への忖度判決

 「あの彼が本当に人を殺すのか。あんなに純粋で優しかった山上君が悪魔になるはずがない」。山上被告の高校時代の同級生は、昨年10月の公判開始にあたり、朝日新聞の取材にこう語っていた(10/25朝日)。

 「どのような審理を望むのか」という質問にはこう答えている。「彼が20年かかって苦しんでここまで落ちていった。その葛藤もきちんと勘案していただきたい。そこに踏み込まなかったら、政治や権力が社会の問題に見て見ぬふりをする、という悪いくせはいつまでも変わらない」

 残念ながら、この元同級生が危惧したとおりの判決が出てしまった。奈良地裁は1月21日、「不遇な生い立ちは犯行に大きく影響しておらず、酌むべき余地も大きくない」として、検察の求刑どおり無期懲役を言い渡したのである。

 「被告人は、家族をめぐる激しい葛藤や教団に対する負の感情を長年にわたってため込んできたところ、内心においてこれらを健全に解消し、あるいは合法的な手段による解決を模索することなく、反社会性の大きい殺人等の手段を選択して実行した。その実行は、被告人自身が決断した結果にほかならず…」

 判決文のこのくだりを読んで慄然とした。統一教会の取り締まりや被害者救済が進まなかった政治的背景を無視して個人の「決断」を責めるなんて、山上被告や彼の同世代を苦しめてきた「自己責任論」そのものだったからだ。

 政府・自民党は統一教会を反共のパートナーとして長年利用してきた。霊感商法や多額の献金強要(山上一家はこのケース)といった組織犯罪の常習犯を政治権力が庇護する状況では、個人が「解決を模索」しても限界がある。それなのに、判決は自民党と教団の関係性に一切触れなかった。

 山上被告が安倍晋三元首相を標的の一人とした直接のきっかけは、2021年9月に安倍が統一教会の関連団体に送った祝賀ビデオを見たことだった。被告は「教団が社会的に認められてしまう」ことへの「絶望と危機感」を抱いたという(法廷での証言)。

 ところが判決は、被告が教団幹部への殺意を「何ら落ち度のない」安倍に向けたのは「短絡的だ」と突き放した。統一教会問題の幕引きを図りたい政府・自民党に配慮した忖度(そんたく)判決というほかない。

「高市総裁が天の願い」

 山上被告の公判には、検察側の証人として佐藤啓参院議員(現官房副長官)が出廷した。事件発生時に安倍の横にいたからだが(安倍は佐藤の選挙応援に来て銃撃された)、統一教会との密接なつながりが周知の事実になっていたら、検察が証人に起用することはなかっただろう。

 事件当日、佐藤は教団の奈良教会で行われた応援集会に招かれていた(安倍の奈良入りと重なり、夫人が代理で参加)。集会後、残った信者たちは佐藤への投票を依頼する「電話かけ大会」を行ったという。熱烈な選挙支援を受けるほどの関係だったのだ。

 この事実を佐藤は自民党の調査に対し隠していた。「裏金議員」でもある佐藤は高市早苗首相の最側近と言われているが、高市自身も統一教会との関係を隠している。そのことが教団の内部文書で明らかになった。

 この「TM特別報告」なる文書は、韓国統一教会の政界工作を捜査する過程で見つかった。TMとは「True Mother(真〈まこと〉の母)」の略で、韓鶴子(ハンハクチャ)総裁のことを指す。世界各地の教団から届く連絡事項を総裁に伝えるために使われていた。

 報告書には日本の政治家と統一教会のつながり、たとえば選挙支援の実態が綴られていた。一例をあげると、2019年7月に行われた参院選の直前、教団幹部が自民党本部を訪れ、当時首相だった安倍と萩生田光一幹事長代行と面談していた。幹部は組織を挙げて細田派(後の安倍派)を支援し「最低20万票を死守する」と宣言。安倍を大いに喜ばせたという。

 高市の名前も何度も出てくる。「高市氏が自民党総裁になることが天の最大の願い」。これは2021年の自民党総裁選に関する記述で、高市への期待度がうかがえる。高市の後援会と教団が「親しい関係」にあることも強調していた。

裏帳簿で隠ぺい

 高市は統一教会との接点について、「選挙応援無し。行事出席無し。金銭のやり取り無し」とXに投稿(22年8月)するなど、一貫して否定してきた。教義の内容や総裁の名前も知らないととぼけてきた。

 これは真っ赤な嘘だった。統一教会の関連団体が高市の政治資金パーティー券を購入していたのである(週刊文春2月5日号)。高市事務所は裏帳簿を作成し、この事実を隠していた。

 TBSの党首討論番組(1/26放送)に出演した際、高市はTM特別報告について「出所不明の文書」「明らかに誤り」と発言した。この話題を切り出した大石晃子・れいわ新選組共同代表に激怒し、「それ名誉棄損!」と恫喝した。

 都合が悪い事実を指摘されると逆ギレし、捏造よばわりするのが高市のパターンだ。その場しのぎの発言を平気で行い、誤りを指摘されても絶対に認めず開き直る。こうした「口からでまかせ体質」の人物に国家運営をゆだねていいわけない。危険すぎる。

 政府・自民党と統一教会の癒着の構造は未だ全容が明らかになっていない。高市と自民党には説明責任があるのだ。    (M)



MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS