2026年03月06日 1910号
【高市圧勝をもたらしたネット選挙/印象操作で期待値爆上げ/「サナエの敵」にはデマ・中傷】
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今回の衆議院選挙では、SNSやネット動画の情報量も高市早苗首相が突出していた。いわゆる高市アゲ動画の氾濫である。一方、反高市とみなされた候補者はネット上の誹謗中傷攻撃にさらされ、中道改革連合の中心的議員が相次いで落選した。「自民圧勝」を導いたネット選挙を検証する。
ネットも高市1強
「ネット人気は票にならない」説は長らく選挙の常識とされてきた。実際には身内の盛り上がりにすぎない場合が多かったし、ネットに親しんでいる若年層は選挙そのものに関心がなく、投票行動に結びつかないとみられていたからだ。
しかし、その常識はもはや過去のものとなった。ネット戦略が選挙結果を大きく左右する事例が相次いだのだ。今回の衆院選もしかり。ネット空間の情報ジャックに成功した高市自民党がリアルな選挙でも覇者となったのである。
データをみてみよう。今回の衆議選にあわせて各政党が出した有料ネット広告の表示回数をネット広告関連のオロ社が分析している。「X」では各政党合計の表示回数のうち自民党がおよそ80%を占めた。ユーチューブでも自民党がおよそ56%と、他の政党を圧倒していた(2/13NHK)。
また、選挙期間中にユーチューブに投稿された、各政党の党首らの名前が含まれた動画をNHKが分析したところ、全体の半数以上を高市首相の名前を含む動画が占めていたことがわかった。まさに「高市1強」だったのだ。
衆院選に関連した動画の総再生数の約8割は、政党や候補者以外の第三者(収益目的のユーチューバーなど)が作成した動画によるものだ。その内容を分析すると、自民に「肯定的」な動画の再生数が6134万回で、「否定的」3494万回の2倍近かった(「選挙ドットコム」調べ)。
昨年の参院選は逆だった。自民に関する動画は「否定的」が83%を占めており、「肯定的」は3%しかなかった。大逆転の立役者は高市だ。今回は高市に「肯定的」な動画が圧倒的に視聴され(1億3496万回再生)、この高市人気が自民を引っ張りあげた。
一方、中道改革連合に関する動画は「否定的」が6910万回で大半を占めた。こうした中道サゲ動画の拡散が若者を中心としたネットユーザーの間に、中道候補者への強烈な忌避感を醸成していったのである。
毎日見て親近感
高市の応援動画は大きく2系統に分けることができる。一つは高市の「頼もしさ」や「毅然とした態度」をPRするもので、高市が討論会で他党の代表らを言い負かしたり(そう見える場面を切り抜き、字幕やBGMで強調)、中国に「屈しない」姿勢を示したりする内容の動画だ。
もう一つは高市の「親しみやすさ」「女性らしさ」を強調する動画だ。「まるで少女のようなほほ笑み」「早苗ちゃん完全に妖精」といったタイトルで釣るショート動画が多い。こうした高市動画の影響をメディアが取材した「街の声」からみてみよう。
横浜市の大学生(19・女性)は、スマホに流れてくる高市関連のショート動画を見て、自民党を支持するようになった。「これまでの首相になかったコミュ力」を高市には感じるという。
ユーチューブで高市動画を見ているという岩手県北上市の女性(60代)は「旧統一教会の問題は気になるが、それよりも高市さんが足を引っ張られて潰れるほうが嫌だ」と話す。
昨年の参院選では「手取りを増やす」を訴えた国民民主党の候補に投票した東京都の男性(25)は、今回は高市演説などの切り抜き動画に共感し、自民党候補に一票を投じた。一度視聴した動画に関連する動画が次々と再生されるネットの仕組みは理解しているが、「毎日のように目にすると親近感がわいてくる」。
このように、高市動画は極右政治家たる彼女の本性を覆い隠し、イメージアップに貢献した。旧来の政治家とは違う「身近な存在」であり、「期待できる」という印象を多くの人びとに抱かせたのである。
苛烈な中道叩き
一方、中道の候補者は高市の足を引っ張る「意地悪なおじさん」とみなされ、大バッシングを受けた。昨年11月の国会論戦で「存立危機事態」発言を高市から引き出した岡田克也元外相がそうである。「中国のスパイ」と罵倒する投稿やフェイク動画で攻撃され、前回選挙まで大差をつけてきた自民党候補に敗れた。
すっかりネットの嫌われ者になった中道を「周りの目」に敏感な若者が支持するはずがない。朝日新聞の出口調査が、SNSや動画サイトの情報を重視する層の衆院比例区の投票先を尋ねたところ、中道と答えた人はわずか4%。断トツ1位の自民36%に大差をつけられた(2/16朝日)。
カネで民意を買う
高市本人が「挑戦しない国に未来はありません」と訴えた自民党の広告動画は、選挙期間中、1億6000万回も再生された。ユーチューブでは選挙と無関係な動画を観ていても、この高市動画が自動再生される事例が頻発した。自民党が運営会社に巨額の広告費を払った結果である。
公職選挙法は、特定の候補者の当選を目指して投票を呼びかける「選挙運動のためのネット広告」は禁じているが、政党が「政治活動」として有料広告を出すことは規制していない。資金力に物を言わせ、政党の主張をネットで大量宣伝することができるのだ。
日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)に至っては、ネット広告を制限する規定が一切ない。テレビ・ラジオの広告は投票日の14日前から禁止なのに、ネット広告は「流し放題」なのだ。豊富な資金を有し、大手広告代理店などネット戦略を知り抜いたチームを抱える自民党が圧倒的に有利な制度設計になっているということだ。
カネの力による世論誘導、デマや誹謗中傷が野放しの状況では、およそ選挙の公平性など保てず、民意を歪めてしまう。今回の衆院選における高市圧勝劇はネット選挙のそうした危うさを浮き彫りにした。 (M)

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