2026年03月13日 1911号

【不登校の子の無料健康診断実施へ/横浜市/2026年度から/当事者の声が自治体を動かした】

 横浜市は来年度から、不登校の子が健康診断を学校外で無料で受けられる制度を導入する予定だ。この制度を求める運動は3年前、一人の保護者の声から始まった。「中3の子は中1から完全不登校に。健康診断は受けてこなかった。体重の増加が見られず心配で、小児科で自己負担で診断を受けた。学校での過去の健診情報がなく困った」

明らかな法令違反

 学校保健安全法は、行政の責任としてすべての子どもの健康診断を義務化している。ところが、不登校の子はほとんどが受診できていない。私は、学校の健康診断は登校が前提となっていて「不登校は想定外」という認識の中で生み出された制度的欠陥だと考えた。同時に、明らかな行政の不作為と思った。すべての子どもには健康に生きる権利があり、保障のための健康診断はどの子にも必要だ。調べると、大阪府吹田市では学校外・無料の健康診断制度を導入していた。

集めた当事者の声

 吹田市のような制度をつくろうと、不登校の子を持つ保護者と当事者にアンケートを実施し、25人から協力を得た。「健康診断を受けなかった」という回答が52%、「後日受けた」は16%だけであった。この実態を受け、「不登校の子どもの学校外健康診断を無料で受診できる制度」を要求する署名運動と横浜市への要望運動を開始した。

学校行事だから!?

 横浜市教育委員会からは「学校実施とは別に病院などで受診することは困難」という冷たい回答。「健康診断は学校行事」で、学校外実施はその位置づけから難しいと説明された。

 つまり、学校に近づくこともできない不登校の子に繰り返し登校を促すという弁明であり、結果として、学校に来れない子が受診できないのはやむを得ないという意味の回答であった。

請願運動に着手

 私たちは横浜市内や全国から集めた1151筆の署名を背景に24年5月、3人の紹介議員を得て請願書を市会に提出。NHK横浜放送局が運動を後押しする番組を流してくれた。人々が気付かなかった問題として取り上げられ、大きな反響を呼んだ。他の自治体でも同様な関心を持つ人が現れた。国会でも立憲民主党やれいわ新選組の議員が政府を追及した。同じ取り組みをするNPOや親の会ともつながりができた。24年大阪ZENKOには、根拠となる論文を書いた大阪公立大学の三枝(さいくさ)まりさんもオンラインで参加された。

 「この指とまれ!」と発信すれば、必ず仲間が広がる手ごたえをつかんだ。

総務省も動きだす

 【岸田元首相が「(学校での健康診断未受検者数を)政府として網羅的に把握していない」と回答(24年6月)したからか、25年7月、総務省が動きだした。「たんぽぽ」は総務省行政評価局の聞き取り調査を2時間にわたり受けた。総務省は9月から全国調査に踏み出した。】

 一人の当事者の怒りの声が人々の心を動かし、地方自治体そして国をも動かしている。その推進力の背景は、その声の切実さ、その問題点を裏付けて確信を与える法的根拠、要望を裏付けるデータや当事者の声の塊(かたまり)、当事者・保護者が集う「たんぽぽ」という居場所の力、インターネットという新しいツールでもつながる仲間の力だと考える。また、自分の実名や顔を出して社会に訴え、発信することの重要性も強調したい。

切実な要求は未解決

 ぜひ全国の自治体も横浜市に学び、早急に「不登校等の子どもの学校外無料の健康診断」を立案・実施してほしい。同時に、国として財政的裏付けを行い、国庫補助により全都道府県で実施することを切に望む。

 加えて、「たんぽぽ」は根底にある大きな問題に挑戦している。多様な学びにつながりたくてもつながれない子どもが多数いることだ。また、不登校の子の半分は家にこもり、外に出られない。そのため、離職したり精神的に病んでしまう保護者も少なくなく、家庭が子どもにとって安心できる居場所になっていない。

 「たんぽぽ」では「保護者への経済的支援」を求める運動を始めた。実態調査アンケート(QRコード参照)を実施し、すでに11都道府県の約100人から協力があった。保護者の切実さがうかがえる。

 ぜひアンケートを多くの方に拡散していただき、ご協力をお願いしたい。

(NPO法人子どもと共に歩むフリースペースたんぽぽ理事 一之瀬百樹)





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