2026年03月13日 1911号

【「殺さない権利」を求めて(18)――非暴力・無防備・非武装の平和学 前田 朗(朝鮮大学校講師)】

 殺さない権利を理解するために「人として認められる権利」「差別されない権利」「将来の世代の人権」を見てきました。国際人権法の概念で、日本ではあまり理解されていません。同じく「同化を強制されない権利」も注目されません。「同化を強制されない権利」は国連先住民族権利宣言第8条に明記されています。先住民族権利宣言第8条は次の通りです。

 1 先住民族およびその個人は、強制的な同化または文化の破壊にさらされない権利を有する。

 2 国家は以下の行為について防止し、是正するための効果的な措置をとる:

 (a) 独自の民族としての彼/女らの一体性、彼/女らの文化的価値観あるいは民族的アイデンティティ(帰属意識)を剥奪する目的または効果をもつあらゆる行為。

 (b) 彼/女らからその土地、領域または資源を収奪する目的または効果をもつあらゆる行為。

 (c) 彼/女らの権利を侵害したり損なう目的または効果をもつあらゆる形態の強制的な住民移転。

 (d) あらゆる形態の強制的な同化または統合。

 (e) 彼/女らに対する人種的または民族的差別を助長または扇動する意図をもつあらゆる形態のプロパガンダ(宣伝)。

 以上の2項目の総体を「同化を強制されない権利」と呼びましょう。民族としてのアイデンティティ、土地・領域・資源の権利、強制的住民移転、強制的同化・統合、ヘイト・スピーチという異なるレベルの5号が並列的に記されています。一見するとバラバラに見えるかもしれませんが、相互に密接につながっています。

 従来、憲法学は憲法上の権利を「人の権利」又は「国民の権利」とし、特定の集団の権利を認めませんでした。マイノリティの権利や先住民族の権利には否定的でした。2007年、日本政府が先住民族権利宣言を認めたので、先住民族の権利に前向きの見解が登場しました。マジョリティの日本人にとって疎遠な権利のため、先住民族権利宣言について重要な論文が公表されていますが、第8条に関する研究は日本では見当たらないようです。

 法学博士のサンドラ・プルイムが『アデレード法雑誌』に「エスノサイドと先住民族――先住民族権利宣言第8条」という論文を書いています。プルイムによると、宣言起草過程では、エスノサイドや文化ジェノサイドについて盛んに論じられたと言います。最終的にエスノサイドや文化ジェノサイドという表現は削除されて、上記の第8条に落ち着きました。同化の強制は民族のアイデンティティを攻撃することであり、文化ジェノサイドにつながるのです。マジョリティによる同化の強制は悲劇的な暴力になります。アイヌ民族や琉球民族に対する同化の強制を検証する必要があります。

<参考文献>
Sandra Pruim, Ethnocide and Indigenous Peoples: Article 8 of the Declaration on the Rights of Indigenous Peoples. Adelaide Law Review 35, 2014.

前田朗「同化を強制されない権利」『明日を拓く』143号(東日本部落解放研究所、2025年)
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS