佐藤和義MDS委員長
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2005年、イラクから全占領軍を撤退させ、ブッシュ、小泉らグローバル資本の戦争屋たちの無法を打ち砕いていくために、どのような方向性が求められているのか。日本そして世界の反戦運動にとって、イラクの市民レジスタンス連帯の持つ意義は何か。また、闘いの展望はどこにあるのか。民主主義的社会主義運動(MDS)佐藤和義委員長に聞いた。(まとめは編集部)
社会変革の展望示す
Q なぜイラク市民レジスタンス連帯を打ち出しているのでしょうか。
グローバル資本主義のイラク支配は、「人を殺し、資本のために利益を還元する」という原理だ。それに対抗するのは「自由・平等・民主主義」という原理でなければならない。
メディアがイラクにおいて反米勢力の象徴のように扱っているイスラム武装勢力はどういうことをしているのか。
民衆の犠牲をいとわず米軍を攻撃し、占領に抵抗するためには、女性を抑圧しようと労働組合の権利を否定しようともかまわない、人質をとり首を切り落とすという残忍な手段で殺害してもかまわないという戦法だ。
そういうやり方で誰が得をするのか。たとえば、9・11テロは、グローバル資本の象徴に対してダメージを与えたかもしれないけれども、その結果、米国内では愛国法で民主主義が抑圧され、アフガニスタンやイラクへの侵略の口実となった。占領軍の虐殺への批判に対して権力の側は、武装勢力の過ちを捉えて「どっちもどっち」というキャンペーンを張り、反戦運動を分断しようとしている。占領軍と同じレベルにたったやり方には反対する。不当な武力に市民を犠牲にする武力で対抗する武装勢力は、展望を示しえない。根本的に間違っている。
グローバル資本が暴力で全世界を支配し破壊してしまおうとするときに、闘う側にはより高い規律・規範が必要だ。民主主義の原理で闘って、将来の社会を建設するという展望をもって闘わなければならない。
イラクで女性の自由と権利を求め戦うヤナール・モハンメドさん
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そして現に、イラク国内で、女性の人権・労働者の権利を擁護し、武装勢力にもくみせず、非暴力で抵抗し民主主義に貫かれたイラクを建設しようとする市民レジスタンスが存在する。暴力の泥沼ではなく、変革の展望をもってイラク社会で闘っている市民レジスタンスとの連帯こそが、展望を与える。
われわれは、グローバル資本主義の支配の一部=イラク占領のみを削ればよいと思っているのではない。イラク反戦闘争・占領軍撤退闘争を通じて全世界からグローバル資本主義の好戦勢力をたたき出し、民主主義に貫かれた社会へと急速に変革する。その方向と展望を示すのが、民主主義的社会主義だ。
自衛隊撤兵を明確に
Q 反占領の運動に今問われているのは。
世界的な反占領運動、中でも欧米の運動の内部には、「自己決定論」を主張する人びとがいる。「イラクの占領反対勢力の中のどれがいいとか悪いとかいうふうに介入してはならない」というものだ。また「帝国主義の占領と闘っている最中に、女性の権利や労働組合の運動をすることはやめるべきだ。反帝国主義・占領撤退の一点で運動すべきだ。占領下で権利を要求したりすることは、それ自体が占領を容認することになる」とする立場すらもある。これらは、明らかに間違っている。
ブッシュ・ブレア・小泉などの戦争犯罪を世界の民衆が裁いたICTR(12月12日・東京)
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ヤナール・モハンメドさん(イラク女性自由協会)が「女性の権利はどこにあるんだ」と言ったことをとらえ「反占領の増大する運動を混乱させる欺瞞的議論だ」と、イラクで生き、暮らし、生命の危機におびえている女性に対してそういう言葉を投げつける。それでは運動は発展しない。イラク市民レジスタンスは、米帝国主義・アラウィかいらい政権の支配と闘っている。グローバル資本が世界的な攻撃を加えている以上、民主主義を実現するためのすべての運動で国際的に連帯して対決しない限り、運動は発展しない。米国のスーパーパワーに対して「第2のスーパーパワー」と呼ばれた世界の反戦運動も、変革していかねばならない時期に来ている。
日本では、自衛隊の駐留1年延長が小泉のいんちきによってサラリと決まってしまったように見える。多くの国がイラク占領から退いていく中で米・英・イタリア・韓国戦争連合とともに日本は利権を求めて居座っている。そしてこの占領参加にふさわしい有事法制をつくった。日本の反戦運動は、日本軍の駐留・戦争体制作りに反対していかなければならない。
「ブレアの嘘で数千人が死んだ」「大量破壊兵器=0、謝罪=0、辞任=0」と追求する英反戦運動(9月29日・ロンドン)
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日本の平和運動は、全占領軍撤退というスローガンをなかなか提示できなかった。その弱さが、04年4月のイラクにおける日本人人質事件のときにさらけ出された。
日本の平和運動の多くは「戦争反対・平和一般」を掲げることにとどまり、「撤退すればイラク国内が混乱する」というキャンペーンに負け、全占領軍撤退を言わなかった。人質の家族の訴えを聞いてようやくイラク自衛隊駐留反対を打ち出したけれでも、「自己責任論」で巻き返されたときに、サッと引いてしまった。
また、政府が対イラクODA(政府開発援助)を再開しようとしていることにからんで「軍隊よりは民間ボランティアの方がうまくいくんだ」という立場で関わろうという人たちがいる。善意からなのかもしれない。だが、経済同友会のように、軍隊と民間企業やNGOが一体となって政府の政策目的を遂行させようというプランが練られているときに、呼応する形で行くのはだめだ。
米国がイラク人を殺し続け、自衛隊が協力している中で、その殺戮に対する根本的批判を留保するのはおかしい。明快に自衛隊駐留反対・全占領軍撤退を打ち出し展望を示さなければならない。
今、権力は「変えられる」という実感、展望をつかませないために必死になっている。小泉は、自分たちが支持されないことがわかっているから、「どれだけ騒いでも変わらないよ」と思わせたいんだ。「こんなばかなことがあるのか」と思いながら、しかし「こんな簡単に決められた」とあきらめを持たされてしまっているんだ。イラク国際戦犯民衆法廷やイラク市民レジスタンス連帯に人びとが集まってくるのは、皆、展望を求め闘いを求めているからだ。そこで感動し、わかったとなる。皆が求めているんだ。
有事体制を突き崩す
展望を示すという意味で、小泉の戦争国家づくりに対する無防備地域宣言の運動も重要だ。イラク占領軍撤退闘争が、全世界に平和を獲得しグローバル資本の好戦勢力を追放する闘いならば、日本の軍事化に対しても同時に闘っていかなくてはならない。その具体的な力となるのが無防備地域宣言運動だ。無防備地域そのものが最初は知られていなかったが、大阪市から始まり各地で実行されてくる中で広がってきた。残念ながら、現時点では議会で制定されるまでには至っていないが、運動としては成功している。
イラク占領軍撤退求め立ち上がった若者たち(9月26日・大阪)
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国民保護法などの有事法制で、権力は訓練・演習への動員を通じて地域社会の末端から戦争国家づくりへと市民を組織しようとしている。貧富の差を拡大させる一方のグローバル資本の政策が、民衆に心から支持されることなどないのは小泉もわかっている。そうすると、抑圧とごまかしで不承不承の支持を取り付けるしかない。そのときのキャンペーンが「テロの脅威」だ。テロの恐怖をあおりたて、密告体制を作ろうとしている。
これに対して、無防備地域宣言運動は、自衛隊の強化や有事体制をローカルなレベルから解体していく。市民自らが平和と安全を確保する無防備地域宣言運動を、イラク占領軍撤退の運動と合体し、アジアの人びとと連帯することによって、アジア地域の平和を作っていくんだ。
繰り返し強調するが、このイラク市民レジスタンス連帯と無防備地域宣言運動を広げることが、日本の反戦運動の展望を切り開くものとなる。
自己を見い出すのは闘い
Q グローバル資本の支配の下で、若者たちが展望を見出すには何が必要でしょうか。
若者たちにとって、今、一番苦しいのは就職問題だ。社会の中で生産関係の基本的な部分から排除されている。
正社員は長時間労働の中でうちひしがれ、フリーターなどの非正規雇用の場合、低賃金の中で生活がひっ迫している。自分たちが社会の中でいらないものだと思わされている。そういう中で若い人に「自信を持て」といっても無理だ。「自分探し」のために外国にちょっと行ってグローバル資本主義から逃れたと思っても、その支配は全世界に及んでいるのだから「自分探し」をしているうちに結局粉砕されてしまう。逃げ道はない。闘う以外に道はないんだ。
彼らは非常に勝ち負けにこだわる。あたかも自分たちが支配階級の末席に連なっていくことに希望を持とうとしているようだ。しかし、そんなことは絶対にありえない。「グローバル資本と闘う」という立場にたたない限り、自己の存在を確立することはできないんだ。
ブッシュ・ブレア・小泉は、正当化することは不可能だから開き直っている。これだけ赤字を垂れ流して、彼らはぎりぎりの勝負に出ている。 人類社会を破壊しつくしてでも、グローバル資本の利益を守ろうとする彼らに対して、人類の未来に責任を持って闘おうとする民主主義的社会主義の側に展望があるのは当然のことだ。
イラク市民レジスタンスに連帯し、無防備地域宣言運動を推し進め、「闘えば変わる」ことを示せば、若者は闘いの中に身をおくことで展望を持つことができる。
ありがとうございました。
(12月15日)