理論・学習誌『民主主義的社会主義第56号』

【イラク市民レジスタンス連帯の意義】

佐藤和義

2.欧米の運動家たちの見解

 ここでは主に二人の見解を紹介する。一人は全交にもこられたANSWERのカネイシャ・ミルズである。もう一人はアメリカの社会主義労働者党(Socialist Workers Party)のエリック・ルーダーである。

(1)エリック・ルーダーの見解

 まずアメリカのエリック・ルーダーから紹介しよう。彼は2004年7月に書かれた「抵抗する権利」という論文で武装レジスタンスの意義を強調する。[注1]

 彼はまずイラクにおける武装闘争を担っているのは誰かと問う。

 アメリカの官僚はイラクの武装闘争を「外国人戦士」「サダム忠誠者」「イスラムテロリスト」の責任にしている。ミシガン大学中東史の教授でイラクレジスタンスの専門家ジュアン・コウルによれば、レジスタンスの戦士は25000人いるが、イラク外部の戦士は500−600人にすぎない。サダム・フセインに忠誠を誓うものも少数であり、アルカイダがイラクに少しいるとしてもそれはアメリカの介入が作り出したものであるという。イラクの武装闘争はイラク人が闘っていることを強調するのである。

 次に占領に武装闘争で抵抗しているときにイラク人を支援すべきかと彼は問う。

 イラク人には武装闘争以外の選択肢はほとんどない。米軍は非武装のデモやその他の形の政治的抵抗に対して残虐に対応するからである。ファルージャでは「サダムノー」「アメリカノー」とシュプレヒコールする人々に米軍が発砲し、17人が死亡し、70人以上が負傷した。そしてかれは武装闘争を行うという自己決定の権利は国際法の一部であり、外国支配下で暮らす人々の合法的な権利として広く認識されている。

 そして彼はイラクレジスタンス勝利の意義を強調する。「イラクレジスタンスがアメリカをイラクから追い出すならば、ブッシュおよびアメリカ帝国主義の予定は大きく遅れることになるだろう。これはわれわれにとって巨大な勝利であるだろう。すなわちアメリカが中東で新しいターゲットを選ぶことをいっそう困難にし、またどこでもアメリカの意思を押し付けようとすることを困難にするであろう」

 「アメリカに対するイラクレジスタンスは日々数を増やし経験をつんでいる。唯一の問題はアメリカが占領のコストが高すぎると判断するまでにどれくらい時間がかかるかということである。…イラク人とアメリカ兵の命のために占領を終わらせ軍隊を撤退させるのはいまだ」と結論的に述べる。要するにエリック・ルーダーは武装闘争の勝利に展望を見出しているのである。

 またエリック・ルーダーは「アメリカはイラクから直ちに出て行け」という論文で以下のように述べている。[注2]

 まず彼は米占領を非難する。「政府とその代弁者のメデイアは内戦と混乱がアメリカの撤退の結果起きるという神話を信じさせてきた。しかし、混乱や内戦の恐怖は占領の結果である」

 「アメリカの官僚は反対運動を統一させないためにイラクのスンニ派とシーア派の分裂を煽った。そして米軍のみが対立する集団の間で『平和を維持している』と主張した」

 「安定をもたらしているアメリカなしではイラクは混乱するという議論はすべて『白人の責任』の21世紀バージョンということになる。これは19世紀初頭から20世紀初頭にかけての植民地主義を正当化したものである。当時、植民地保有国はすべて弱小国に対する支配を、自治できない野蛮人に対し民主主義と文明をもたらしていると主張することで正当化した」。そしてイラク人の自己決定を主張する。

 「アメリカも国連もすべての外国軍はイラクを去るべきである。イラク自身が自らの政治指導者を決め、選挙をいかにして組織するか、国をいかにして再建するかを決めるべきである。アメリカ政府に誰がイラクを統治するのかの選択権を与えられるべきではない。同様に反戦運動のわれわれもなんらの要求もすべきではない。イラクを統治することになる人々の政治にわれわれが同意できないこともあるだろう。しかしそれが自己決定の意味するところであり、イラク人が決定するということなのである。アメリカ政府の即時撤退以外のことを要求することはーそれはよく民主主義とか自由とか正義とかの高尚な言葉で覆い隠されているー戦争目的の追求を継続することを政治的に正当化することになる」

 「アメリカの戦争と占領に反対するものはわれわれの政府を直ちに撤退させるために全力を尽くす責任がある。われわれはアメリカ兵が石油と帝国のためにさらに死んでほしくない。またイラク人が自己決定権を持つこと、すなわち彼らが、彼らだけで自らの未来を決めることを望む」。要するに彼のポイントは自己決定の名の下、米軍即時撤退以外のことすなわち政教分離、自由平等を掲げることは間違いだということをいっているのである。明らかに市民レジスタンスへの批判である。

(2)カネイシャ・ミルズの見解

 カネイシャ・ミルズは社会主義解放党(Party for Socialism and Liberation)の機関誌『社会主義と解放』(Socialism and Liberation)11月9日に論文「反戦運動とイラクレジスタンス」を発表し、イラク市民レジスタンスを全面的に批判している。[注3]

 彼女はまず「アメリカのイラクと中東支配の最大の障害になってきたのが、アメリカのイラク軍事占領に対する武装レジスタンスである」と指摘し、「武装レジスタンスはそれにあらゆる苦痛を伴ったとしても、自らの国を新植民地主義支配されることへの不可避の返答なのである」と武装レジスタンス支持を表明する。そのうえで「『市民レジスタンス』とは、アメリカ帝国主義者の計画とそのかいらい政権を承認するという暗号になっているのである」と市民レジスタンスを批判する。かいらい政権を支持しているイラク共産党とイラク労働組合協議会(IFTU)を市民レジスタンスのもうひとつのグループと規定し、UUIとOWFIは占領にも武装レジスタンスにも反対という偽装的手口をとっていてイラク共産党より危険であると強く非難する。そのポイントはUUIが占領軍に支えられた当局に対し雇用か月100ドルを要求したことである。カネイシャは「UUIの計画は、雇用や財源を提供する際に米軍が中心的役割を果たすこと承認している」と批判する。そして武装レジスタンスは大衆の支持を得ていることを力説する。UUIが武装レジスタンスを民族主義者とイスラム勢力のグループと規定するのは「占領軍の宣伝を忠実に真似ている」として、[UUIとその同調者たちは帝国主義軍隊を追い出したがっている広範なイラク大衆から孤立しているのだ]とする。全交の討議の中でOWFIのヤナール・モハンメドが「皆さんはイラク人民に明るい未来を持ってほしいですか、それとも、女性の権利のない神権政治の元で暮らしたいですか」と問いかけたことに対し、「欺瞞的な議論」であり、「進歩的な運動に混乱の種をまくことを目的としたものだ」という。イラク共産党やイラク労働者共産党は米軍の協力者として行動し、「何百万人ものイラク人の目の前でマルクス主義の信用を傷つけている」のだという。イラク労働者共産党、イラク共産党は、ホーチミン、金日成、毛沢東に示される反帝国主義の伝統を冒涜するものなのだとする。そしてUUIやOWFIはアメリカの反戦運動において民主党に同調しようとする部分によって信奉されると指摘する。「こうしたグループはアメリカ政府によって現在採用されている戦術には反対するが、本質的にはより親切で紳士的な占領に賛成するに過ぎないのだ」と批判する。結論的に「今日のイラクには二つの意陣営が存在する。われわれは帝国主義に抵抗するあらゆる人々の側に立つ義務を持っている」とのべる。要するにイラク市民レジスタンスはアメリカ帝国主義の側に立つものだという批判なのである。

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